【小説】メルちゃんとはなまるおばけ

はじめにお読みください。




「はーい、理科のテスト返しまーす」

「名前を呼ばれたら前に来てくださいね」

「じゃあ、◯◯ちゃん」

「はい!」

メルちゃんはどきどきが止まりません。

『今度のテストでいい点が取れたらね…なんでも好きなもの買ってあげる』

『ほ、ほんと!?』

『でも、いい点だよ?』

『いい点って、何点?』

『ん~、じゃあね…100点!』

『え』

先週、メルちゃんはお姉ちゃんとこんな約束をしていました。

何としてでも100点をとらないといけないのです。

ところで、メルちゃんの欲しい物は何でしょうか。

「(うーん、何買ってもらうかな~)」

「(わくわくするな~)」

「メルちゃん」

「(おもちゃもいいけど、おいしいものもいいよね)」

「メルちゃーん」

「(それとも、どこか旅行に連れて行ってもらおうかな?)」

「…メルちゃん?」

つんつん

「!!」

「メルちゃんどうしたの?先生呼んでるよ」

「あ、ありがと…」

「なんかにやにやしてたけど…何かいいことでもあったの?」

「え、えへへ…なんでもないよ」

何を買ってもらおうかな、何を買ってもらおうかな…

メルちゃんが先生の元へ向かう途中も、頭はそのことでいっぱいです。

「はい、メルちゃん…テストを返しまーす」

「はい!」

「元気がいいね、どうしたのかな?」

「ひみつ!」

「え~、先生にも教えて欲しいな」

「ひみつでーす!」

「先生に隠し事はよくないよ~?」

「…なーんてね」

「はい、どうぞ」

「…メルちゃん」

「なあに?」

「今度は頑張ってね」

キーンコーンカーンコーン

下校時間になりました。

なにやらクラスのみんなががやがやしています。

「ねえねえ、◯◯ちゃんテストで100点だったんだって!!」

「え、すごい!」

「見せて見せて!」

「わ、本当だ!!」

「そんなにすごいかな、あはは…」

「ねえねえ、どうやったらいい点が取れるの?」

100点満点を取った子はいまや大スターです。

一方のメルちゃんはというと…

「ろっ、66点…」

「そんな…あんなにお勉強したのに」

「メル…お勉強のやりかたがだめなのかなあ」

「…うぅ」

「ねえねえ、メルちゃん何点だった?」

「え、えっとね…」

「みてみて、私ね…82点だったよ!」

「メルちゃんは?」

「あ、えっと…あのね、メル帰らないといけないから」

「え?ちょっと待ってよ、一緒に帰ろうよ」

「…ばいばい!!」

「あ!メルちゃん!」

いつもお友達と歩く帰り道。

今日はメルちゃんだけです。

『今度のテストでいい点が取れたらね…なんでも好きなもの買ってあげる』

この言葉が頭を離れません。

「100点なんてどうやったら取れるんだろ」

「メルお勉強きらい…」

「大人はいいなぁ…お勉強しなくていいから」

「メルもはやく大人になりたいな」

「はぁ~~…」

そうこうしているうちに家に着きました。

「ただいま」

「おかえり、おやつ買ってあるよ」

「…」

「どうしたの?」

「なんでもないもん」

「そう」

「着替えてくる…」

「手を洗ってうがいもしてね」

「じゃーん!」

「今日はね、メルちゃんの大好きなドーナツを買ってきたからね」

「どれでも好きなの食べていいからね」

「…うん」

「もう、さっきからどうしたの?」

「今日ね、テストが返ってきた」

「あ、理科のテストだったっけ」

「あの約束忘れてないよ、で…何点だったかな?」

「…」

メルちゃんはテスト用紙を渡しました。

「66点かぁ」

「お姉ちゃんこの前なんて言ったっけ」

「100点満点だったら、なんでも好きなもの買ってくれるって」

「じゃ、今回はだめだね」

「ま、待って!!」

「ダメなものはダメ!!」

「ほら見て、66点ってひっくり返すと99点だよ?」

「何ってるの」

「あ、じゃあね…四捨五入したら100点だから!!」

「いや…なんで四捨五入するのさ」

「えっとね、えっとね、6と6を足したら…」

「今回はだめでーす」

「おっ…」

「お姉ちゃんのばか!」

「ば、バカって何よ!」

「100点取れなかったメルちゃんが悪いんでしょ?」

なぜか二人はケンカし始めました。

「メルお勉強頑張ったんだもん!!」

「でも100点じゃないよね?」

「頑張ったから100点だもん!!」

「なにそれ、意味分かんないなぁ」

「お姉ちゃんのいじわる!」

「い、意地悪!?」

「お姉ちゃんなんてだいきらい!!」

「何よ!」

「私もメルちゃんなんて大嫌い!!」

「もう知らないからね、ご飯も作ってあげないしお洗濯もしてあげない!!」

「わーん!!」

メルちゃんは泣きながらお部屋に戻りました。

「嫌いって何よ、お世話してるのどっちだと思ってるのかね」

「ふん…謝るまで許さないんだから」

「でも…ちょっと言い過ぎたかな」

メルちゃんはベッドの上で大泣きしています。

66点のテスト用紙はぐしゃぐしゃにしてしまいました。

「おねえちゃんのばか…ひっく」

「メルがんばったもん…おべんきょうしたもん…ひっく」

「もうがっこういかないもん…」

しばらくして、メルちゃんは泣き止みました。

けれども、大好きなお姉ちゃんとケンカしてしまいました。

『私もメルちゃんなんて大嫌い!!』

お姉ちゃんの言葉が忘れられません。

「…お姉ちゃんおこってるかな」

「もうごはん作ってもらえないかな」

「メル…おなかすいてしんじゃうのかな」

「もうお洗濯もしてもらえないのかな」

「メル…これからはだかで生活するのかな」

「…」

一方のお姉ちゃんは…

「はぁ、やっぱり言い過ぎたよなぁ」

「メルちゃん何してるのかぁ」

「まだ泣いてるのかなぁ」

「メルちゃんお勉強頑張ったんだから、何か買ってあげればよかったんだ」

「私ってケチなのかな」

「…ちょっと様子を見に行こうかな」

そーっとメルちゃんのお部屋に近づきました。

けれども、耳を立てても何も聞こえません。

家を出ていっちゃったのでは…そんな心配が頭をよぎりました。

「め、メルちゃん?」

「開けるよ?いい?」

「…」

そーっとドアを開けると、泣き疲れたのかメルちゃんはベッドの上で寝ていました。

目には涙が溜まっています。

「め、メルちゃん…」

その様子を見て、思わず泣いてしまいました。



「メルちゃんごめんね、言い過ぎたね、怖かったね…ぐすっ」

「やっぱりなんでも買ってあげるからね、メルちゃん頑張ったね…」

そっとメルちゃんの頭をなでてから部屋を出ました。

「後で謝らなきゃ」

しばらくして、メルちゃんは目を覚ましました。

「んぅ…」

「メル…寝たのかな」

「お姉ちゃんにごめんなさいしないと」

「でもお姉ちゃん怒ってるよね、どうしようどうしよう」

「…ん?」

床に転がったランドセルの裏で何かが動いています。

りんごぐらいの大きさでしょうか。

「えっ、何か動いてる」

「何あれ…」

メルちゃんがじーっと見ていると、ランドセルの裏に隠れてしまいました。

「見るのが怖いなぁ」

「メル…虫は嫌いなんだけど」

「お姉ちゃん…たすけて…」

じっとしててもどうにもなりません。

メルちゃんは意を決しました。

「ランドセルの裏の何かさん…」

「出ておいで!!」

がばっ

そこに居たのは、ちいさな白い生き物でした。

メルちゃんは驚いて尻もちをつきました。

「わ!!」

「やだ!!あっちいって!!」

けれども、白い生き物はじーっとメルちゃんを見つめています。

敵意は無いようです。

「…め、メルのこと見てるみたい」

「もしかして喋れるのかな?」

「…よし」

メルちゃんは息を吸いました。

「こ、こんにちは」

「メルは、メルっていう名前だよ」

「あなたのお名前は…なあに?」

「はじめまして!まるまるだよ!」

メルちゃんは驚いてまたしても尻もちをついてしまいました。

「メルちゃんっていうお名前なんだね!」

「わ、わ…」

「…まるまるのこと、こわいの?」

「こ…怖くないもん」

「おはなししようよ、なの!」

メルちゃんはなんとか落ち着きを取り戻しました。

一方のまるまるはとても楽しそうです。

メルちゃんのお部屋を興味深く観察しています。

「えーっと、まるまるさん…だっけ」

「まるまるってよんでいいよ!」

「そう?」

「じゃあ…まるまるはどこから来たの?」

「おぼえてないの」

「え?」

「まるまるね、きがついたらここにいたの」

「じゃあ、何しに来たの?」

「まるまるはね…がんばるみんなにはなまるをつけるの!」

「はなまる?」

「うん!」

はなまる、メルちゃんはその言葉に反応しました。

「はなまる…」

「メルちゃんどうしたの?」

「あのね、メル…テストで100点取ったら好きなもの買ってもらえるってお姉ちゃんと約束したの」

「100てん!」

「まるまる、はなまるつけたい!!」

「みせてみせて!!」

「あ、あのね…66点だったから…みなくていいよ」

「いいからいいから!!」

まるまるはちょっと興奮しています。

メルちゃんはちょっと嫌そうながらも、ぐしゃぐしゃにしてしまったテスト用紙を広げました。

66点、何度見ても変わりません。

メルちゃんはまた悲しくなってきました。

「メルね、66点しか取れなかったの」

「すごいすごい!!」

「え?」

「メルちゃんちょっといい?」

まるまるはどこからか赤えんぴつを取り出しました。

すると、テスト用紙にはなまるを付けました。

ちょっぴりゆがんだ、おおきなはなまるです。

「おべんきょうがんばったから、はなまる!」

「…メル、はなまるなの?」

「うん!」

「そ、そうなの?」

「えへへ、ちょっと嬉しいな」

メルちゃんは笑顔になりました。

お勉強頑張った、と言われたのが嬉しかったようです。

なにより、テスト用紙に上書きされたおおきなはなまるが輝いて見えました。

「まるまる、ありがと!」

「どういたしまして~なの」

「メルね、お勉強頑張ったんだよ」

「うんうん」

「まるまるにはなまる貰って、メル嬉しくなった!」

「もっとお勉強して…いつか100点取ってやる!」

「まるまるもおうえんするの!」

気がつくと夕方になっていました。

メルちゃんのお腹が鳴りました。

「…あ、もうこんな時間だ」

「まるまる、そろそろかえるの」

「帰っちゃうの?」

「またあしたきてもいい?」

「もちろん!」

「じゃ、またね!」

まるまるはどこかに行ってしまいました。

「…帰るって、どこに帰るんだろう?」

「それよりも…ごはん作ってもらえるのかなあ」

「お姉ちゃん怒ってるよね、でもお腹すいたし…」

「お腹がすきすぎてお腹と背中がくっついちゃうよう…」

空腹に耐えかねたメルちゃんはお部屋を出ました。

とぼとぼと歩いていきます。

「あ、メルちゃん…」

「あのね、さっきは言い過ぎちゃってごめんね」

「メルもね、ばかっていってごめんなさい」

お姉ちゃんはメルちゃんを抱きしめました。

「…ご飯食べよっか」

「…うん!」

二人はすっかり仲直りしました。

「メルおなかすいたの」

「今日はね…仲直りのオムライスだよ」

「やった!」

「いっぱい食べてね~」

「お姉ちゃんだいすき!!」

「え?私もメルちゃん大好きだからね」

「えへへ、うれしいな~」

「じゃ、食べよっか?」

「うん!!」

翌日

メルちゃんは学校から帰って来ると一目散にお部屋に行きました。

学校にいる間も、ちゃんとお部屋にまるまるが居るか気になって仕方がありませんでした。

「まるまる、出ておいで~!」

「ここだよ!」

「あ!いた!!」

まるまるはメルちゃんの勉強机の上に座っていました。

「やっほー」

「またまるまるに会えて嬉しい!!」

「まるまるもうれしいの!」

「今日は学校でね…」

その日から、メルちゃんはまるまるに今日あったことをお話するのが日課になりました。

そして、まるまるはいつも頑張ったメルちゃんにはなまるをあげました。

「いっぱいはっぴょうしたから、はなまる!」

「だれよりもおそうじしてぴかぴかになったから、はなまる!」

「かけっこまけちゃったけど、たくさんがんばったからはなまる!」

その度に、メルちゃんは笑顔になりました。

「まるまるね、みんなのえがおをみるのがだいすきなの」

「他の人にもはなまるをつけてるの?」

「うん!」

「へえ、そうなんだ~」

「あ、でね…今度の理科のテストで100点が取れたら好きなもの買ってくれるんだって」

「メルちゃん、がんばってほしいの!」

「メル頑張る!!」

メルちゃんとまるまるは一緒にお勉強するようになりました。

お勉強が終わるといつも、まるまるはメルちゃんにはなまるをくれました。

メルちゃんはそれが嬉しくて、お勉強を頑張りました。

「はーい、理科のテスト返しまーす」

「お名前呼ばれたら前に来てくださいねー」

メルちゃんはどきどきが止まりません。

けれども、どこか自信気な顔をしています。

「じゃあ次…メルちゃん!」

「はい!!」

「メルちゃんだね、えーっと…」

「お、すごいね…メルちゃん頑張ったね」

「え?」

「はい、どうぞ」

メルちゃんは恐る恐るテスト用紙を見ました。

そこに書かれていたのは、大きなはなまるでした。

「ひっ、100点だ…」

「メルちゃんすごいね、先生関心しちゃった」

「この調子で頑張ろうね」

「…うん!!」

「メルちゃん、何点だった?」

「私ね、69点だった…」

「えっとね、メルね、用事があるから帰るね!!」

「ちょっと、メルちゃん!?」

メルちゃんは大急ぎでおうちに帰りました。

制服のままお姉ちゃんの元へ駆け寄ります。

「あ、メルちゃんおかえり…って、どうしたの?」

「おやつはお着替えしてから食べようね」

「見て見て!!」

メルちゃんは自信満々にテスト用紙を見せつけました。

100点、の文字が輝いて見えます。

「…わ、すごいじゃん!」

「メルちゃんおめでとう!」

「えへん、メル頑張ったんだよ!」

「じゃあ、頑張ったメルちゃんには…ごほうび!」

「好きなもの、何でも買ってあげまーす」

「や…」

「やった!!!!」

「お姉ちゃんだいすき!!」

「知ってるよ~、お姉ちゃんもメルちゃんのこと大好きだからね」

「…で、何が買って欲しいの?」

「えっとね…」

メルちゃんはお姉ちゃんにひそひそと欲しい物を伝えました。

「…え?」

「そんなのでいいの?」

「ほんとに?」

「うん!」

「…そっか、じゃあ今度買っとくね」

「ありがとう!!」

メルちゃんはおやつを食べるとすぐ、お部屋に戻りました。

そして、勉強机に座っているまるまるにテスト用紙を見せました。

「まるまる、見て見て!」

「メルね、100点取った!」

「わぁ、メルちゃんすごいすごい!!」

「まるまるのおかげだよ、ありがとう!」

「えへへ、まるまるもうれしいの!」

「じゃあ、がんばったメルちゃんに…おっきなはなまる!!」

まるまるが、テスト用紙におおきなはなまるをつけました。

二重になったはなまるがぴかぴかと輝いて見えます。

メルちゃんは感無量です。

「まるまる、そろそろかえるの!」

「ね、また来てね!」

「うん!」

その夜、メルちゃんは疲れたのかすぐに寝てしまいました。

しばらくすると、お姉ちゃんが入ってきました。

「メルちゃんが欲しいって言ったもの…買ってきたけどさ」

「ホントにこんなのでいいの?」

「子供ってよく分からないなぁ…」

「…安かったし、まあいいか」

「メルちゃん頑張ったね、大好きだよ」

枕元に、文房具店で買ってきた新品の赤えんぴつをそっと置いて部屋を出ました。

金箔押しされた「メル」の文字が、キラッと光りました。

おしまい

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