【小説】メルちゃんシュクルタウンに行く

はじめにお読みください。




「あれ、なんだろ?」

メルちゃんがポストを開けると、ぽつんと一通の封筒が入っていました。

水色の、やけに装丁の豪華な封筒です。

「え…誰からかな?」

「宛名は、メルちゃんって書いてあるけど」

「差出人は…シュクルタウンのシナモン?」

「シナモンって誰だろう?」

「シュクルタウン…?」

「聞いたこと無いなあ」

メルちゃんはお部屋に戻ると、ベッドに座りました。

星のシールで封がしてあります。

「メルと同い年の子からだったりして?」

「開けてみよっと」

メルちゃんが封を開けたその時でした。

「わ!!」

突然、封筒が虹色に光り輝きました。

メルちゃんはまぶしくて目をつむりました。

お部屋が虹色に包まれています。

「…ぅ、まぶしい」

しばらくすると…

「あれ…?」

「ここ、どこ?」

メルちゃんは見知らぬ街に居ました。

フランスかどこかの、遠く離れた国のようなおしゃれな佇まいです。

「え、どうしようどうしよう…お家に帰らないと」

「…ん?」

遠くから誰かがやってくるのが見えました。

メルちゃんと同じぐらいの身長の子です。

「わ、誰か来た!」

「ちょうどいいから…あの子に聞いてみるかな?」

誰かさんがメルちゃんのもとにやってきました。

メルちゃんのことをじーっと見つめています。

「あの、ちょっといいですか?」

「…」

「ここ、どこ?」

その子は黙ったままです。

メルちゃんは不安になってきました。

「…メルね、この街に迷い込んじゃったの」

「どうすればいいんだろう」

『メル』という言葉を聞いた瞬間、その子はぱぁっと笑顔になりました。

「わあ、やっぱりメルちゃんなんだ!!」

「え?」

「シュクルタウンへようこそ!!」

「えっ、えっ…」

なにがなんだか分かりません。

「あ、あのね、メルね、迷い込んじゃってね…」

「大丈夫だよ、ぼくが招待したの!!」

「招待…?」

「水色の封筒を開けてくれたんだよね?」

「水色の封筒…」

メルちゃんは先程のことを思い出しました。

封筒を開けた瞬間、この街に居たのです。

「…うん、封筒を開けたらここにいたの」

「ぼくが魔法を掛けたんだよ」

「魔法…」

メルちゃんは混乱してきました。

とりあえず一息つこうと、近くにあったベンチに腰をかけました。

「…あの」

「なあに?」

「お名前を聞いてもいい…?」

「ぼくの?」

「うん…」

「ぼくシナモン!!」

「し…シナモン?」

封筒の差出人の名前と同じです。

メルちゃんにお手紙を書いた子のようです。

「じゃあ、メルにお手紙を書いたのって…」

「うん、ぼくだよ!!」

「ぼくね、メルちゃんに会ってみたかったんだ」

「宜しくね!!」

「…うん!!」

二人は握手しました。

シナモンはとっても嬉しそうです。

しかし、メルちゃんはまだ不安な顔をしています。

「あのね、シナモンさん…」

「シナモンって呼んで欲しいな~」

「じゃあ…シナモン、お家に帰るにはどうしたらいいの?」

「これ、どうぞ」

シナモンは何かを差し出しました。

水色の宝石のついたブローチです。

太陽の日差しを浴びてキラッと光りました。

「これ、なに?」

「えへへ、ぼくが魔法を掛けたブローチだよ」

「それがあればね、メルちゃんはお家に帰れるからね」

「どうやって使うの?」

「それはまた教えてあげるね」

「ところでメルちゃん、何か飲む?」

「…メル喉が乾いたかも」

「じゃあ、こっちに来て!」

メルちゃんはシナモンに手を引かれて歩きました。

しばらくして、カフェのような建物に到着しました。

「ここは…?」

「カフェ・シナモンだよ」

「ぼくね、ここでお仕事のお手伝いしてるんだ」

「へぇ~、そうなんだ」

「どうぞ、入ってね」

二人はカフェ・シナモンに入りました。

店内は誰もいません。

「あれ、誰も居ないよ?」

「お昼休憩してるのかなあ?」

「まあいいや、好きな席に座ってね」

「うん」

メルちゃんが窓際の席に座ると、シナモンがメニューを持ってきました。

美味しそうなものがずらりと並んでいます。

「どれがいい?」

「メル、おこずかい持ってきてないの…」

「サービスしてあげるから大丈夫!」

「んー、じゃあ…オレンジジュースをお願いします」

「わかった、待っててね!」

しばらくして、シナモンが厨房から戻ってきました。

「おまたせ!」

「…あれ?」

テーブルにオレンジジュースと、おまけにパンが置かれました。

「パンも食べていいの?」

「えへへ、メルちゃんお腹すいたかなって思って」

「うれしい!」

「これはね、カフェ・シナモンの人気メニューのシナモンロールっていうパンなんだよ」

「初めて見るなあ~」

「じゃあ、いただきます!」

メルちゃんはシナモンロールを一口食べました。

口の中においしさがひろがります。

「わぁ、おいしい!!」

「えへへ、ありがとう!」

オレンジジュースも、メルちゃんがいつも飲んでいるものよりも一段と美味しく感じられます。

「…ねえ、シナモン」

「んー?」

「メル…これからどうすればいいの?」

シナモンロールを頬張りながら訪ねました。

「ぼくと一緒に遊んでほしいな」

「…メルお家に帰れるよね?」

「もちろん!」

「何して遊ぼっかな~」

「…」

メルちゃんはとりあえずオレンジジュースを飲み干しました。

グラスに入った氷がからんと音を立てました。

「ねえ、公園に行かない?」

「それはいいけど…」

メルちゃんは心配そうな顔をしたままです。

お家に帰れるかどうかが気がかりなのです。

「さっきのブローチ、どうやって使うの?」

「…もう帰っちゃうの?」

「ほんとにお家に帰れるか心配なの」

「じゃあ、使い方を教えてあげるね」

「ブローチを握ってからね…」

「こう?」

「うんうん」

「お家のことを考えるの」

「おうち…」

メルちゃんがぱっと思い浮かんだのは、自分のお部屋です。

その瞬間、ブローチが光り輝きました。

「わ!!」

メルちゃんはまぶしくて目をつむりました。

「…」

「あ、あれ?」

気がつくと、そこはメルちゃんのお部屋でした。

時計を見ると、時間が進んでいません。

シュクルタウンは不思議な街のようです。

「帰ってきちゃった」

「…も、もうお別れなの?」

ふと、右手にブローチを握りしめていることに気が付きました。

「あ」

「ブローチ貰ったんだった」

「…お家に帰ったのはいいけど、どうやってシナモンに会いに行くんだろう?」

「んーっと」

「握りしめてから…」

メルちゃんは、さっきシナモンと座ったテーブルを思い浮かべました。

すると…

「…わっ!!」

またしてもブローチが光り輝きました。

メルちゃんは目をつむると、先程のテーブルに座っていました。

「おかえり!」

そこにはシナモンが居ました。

「…不思議なブローチだなあ」

「ね、お家に帰れたでしょ?」

「このブローチ…メルが持ってていいの?」

「もちろん!」

「…ありがとう」

二人は公園に向かいました。

雲ひとつない天気です。

小鳥たちが楽しそうにさえずっています。

「なにして遊ぼっかな~」

シナモンはとっても楽しそうです。

メルちゃんも、硬い表情が和らいできました。

二人がお話していると、目の前に黄色い鳥が飛んできました。

「…ねえシナモン」

「なあに?」

「聞きたいことがあるの」

「いいよ、なになに?」

「…やっぱりいい」

「え?」

すると、小鳥が飛び去っていきました。

メルちゃんは空を舞う小鳥を見つめています。

「鳥さんがどうかしたの?」

「…笑わないで聞いてほしいの」

「ぼくそんなことしないよ~」

「メルちゃんのお話、なにかなあ?」

「メルね、お空を飛んでみたいの」

「ぼく飛べるよ!」

「え?」

シナモンは自慢のお耳をぱたぱたさせると、宙に浮き出しました。

「…わ!!」

メルちゃんは目を丸くしています。

「すごいすごい!!」

「そんなにすごいかなあ…えへへ」

「ねえねえ、どうやったら飛べるの?」

「メルね、毎日お空を飛ぶ練習をしてるの」

「だけどね、いつになっても飛べないの…」

メルちゃんは悲しい目をしました。

シナモンが降りてくると、メルちゃんの手を取りました。

「じゃあ、一緒に飛ぼ!」

とたんにメルちゃんの体が浮きました。

「え、え…」

「メル浮いてる!!」

二人は急上昇していきます。

やがて、シュクルタウンが一望できる高さに来ました。

「すごいすごい!!」

「ぼくね、お空を飛ぶのが得意なんだ~」

お耳をぱたぱたさせながら言いました。

「メルの夢が叶った!!」

「えへへ、それはよかった!」

二人は公園に着地しました。

メルちゃんはどきどきが止まりません。

「…メルここに住みたいな~」

「あ、じゃあ一日だけ一緒に居ようよ!」

「いいの?」

「もちろん!」

ふと、メルちゃんは遠くから誰かがやってくるのに気が付きました。

今度はメルちゃんより少し背の低い子です。

「わ、誰か来たよ!」

「あ、みるくだ!!」

「み…みるく?」

みるくがシナモンのもとに駆け寄りました。

シナモンはみるくをなでています。

「この子はね、みるくって言うの」

「ばぁぶ!!」

「は、初めまして」

「みるくも一緒に遊んでほしいみたいだから…」

「三人で一緒に何かしよ?」

「もちろん!」

三人は夢中で遊びました。

かけっこ、すべり台、木陰でお昼寝…

すっかり仲良しといった様子です。

「楽しいなぁ~」

「メルもね、とっても楽しい!」

三人は四つ葉のクローバー探しをしています。

みるくはやる気になったのか、真剣に探しています。

「もうこんな時間だね…」

「楽しい時間って…あっという間だよね」

「ぼく、また明日も遊びたいな」

「メルもまた来たい!」

「ばぶ!!」

「ん、みるくどうしたの?」

みるくの手には四つ葉のクローバーがありました。

「わ、すごい!!」

「みるくすごいね、おめでとう~!」

「メル一回も見つけたことがないんだよ」

「ばぶばぶ!!」

自慢げなみるくを見て、二人は自然と笑顔になりました。

「…ん、なあに?」

みるくは四つ葉のクローバーを差し出してきました。

「え、くれるの?」

「ばぶ!」

「ありがとう!!」

時刻はすっかり夕方です。

遠くでカラスが鳴いています。

「そろそろ、帰る時間だね」

「メルはどうすればいいの?」

「ぼくのおうちに来て欲しいな」

「いいの?」

「うん!」

二人はみるくにばいばいしてから、シナモンのお家に向かいました。

「おじゃましまーす」

「ゆっくりしててね」

「うん!」

夜ご飯を食べてお風呂に入ると、さっそくトランプ大会が始まりました。

二人は熱心に対戦しています。

引き分けで終わると、メルちゃんはあくびをしました。

「あ、メルちゃん眠いんだ」

「シナモンは眠くないの?」

「そんなこと…ふあぁ」

「あ、シナモンも眠いんだ」

「そろそろ寝よっか」

「うん」

二人は一緒のベッドに入りました。

とっても楽しいようで、内緒のお話が始まりました。

「ねえねえ、メルちゃんは好きな人いるの?」

「え~、シナモンから教えてよ」

「メルちゃんが教えてくれたら言うよ」

「そう?」

「えっと…やっぱり秘密!」

「あはは!」

二人はしばらくして、仲良く眠りにつきました。

翌朝…

「…あれ、ここどこ?」

メルちゃんが先に目を覚ましました。

見慣れない天井を見て驚いたようです。

すぐに、シナモンも起きてきました。

「あれ、メルちゃんもう起きてたの?」

「うん…」

メルちゃんはどこか寂しそうな目をしています。

お家が恋しくなったようです。

「メルね、そろそろおうちに帰りたい」

「そっか…」

「ま、また会えるよね?」

「うん、昨日あげたブローチがあればね」

「ブローチ…あった!」

メルちゃんはポケットを探ってブローチを取り出しました。

朝日を浴びてきらりと光りました。

「じゃあ…メルちゃん」

「また、来てくれるよね?」

「もちろん!!」

二人はお別れの握手をしました。

「じゃあね、ばいばい!!」

「来てくれてありがとう!!」

メルちゃんはもとの世界に帰っていきました。

「…えへへ」

「お友達が増えちゃった」

メルちゃんは気がつくとまたしてもお部屋に居ました。

相変わらず、時間は進んでいません。

「…不思議な旅だったなぁ」

「このブローチ、大切にしなきゃ」

メルちゃんはふと、左のポケットに何か入っているのに気が付きました。

「…あ!!」

クローバーが入っていることをすっかり忘れていたようです。

しかも、よく見ると四つ葉ではなく三つ葉です。

「もう、みるくったら」

「全然気が付かなかった…」

三つ葉のクローバーはすこししなびてきています。

葉っぱが1枚だけ小さく、まるでシナモンとメルちゃん、みるくの三人を表しているかのようです。

「大切にしなきゃ」

「えーっと…」

メルちゃんは辞書にクローバーをはさみました。

その上に何冊か本を置いて、押し花にするようです。

「思い出のクローバーだね、えへへ」

「また遊びに行かなきゃ」

「…ふあぁ」

「ちょっとお昼寝…」

メルちゃんはベッドに入るとすぐ寝てしまいました。

「むにゃ…」

何やら寝言を言っています。

「またあそぼうね…」

後日、メルちゃんはクローバーでしおりを作りました。

「えへへ、宝物だよ~」

「また今度、二人に見せなきゃ」

「…そうだ」

メルちゃんはこの前買った『花言葉辞典』で、クローバーのページを読みました。

「三つ葉のクローバーの花言葉は…『約束』」

「約束かぁ」

「えへへ、絶対また会うって約束したよね」

「また遊ぼうね」

「また、お空を飛ばせてね」

「また…絶対、会おうね」

どこか遠くから、小鳥の鳴き声が聞こえてきました。

おしまい

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