【小説】雨

はじめにお読みください。




「んー、つまらないなぁ」

メルちゃんは頬杖をついて窓の外を眺めています。

「どうしたの?」

「雨が降っててお友達と遊べないの」

「昨日も遊んでたじゃん」

「毎日あそびたいの!!」

「ふーん、子供は元気だねぇ」

「メル子供じゃないもん!!」

「へぇ、大人はピーマン食べられるけど」

「た…食べられるもん!!」

どうでもいい会話をしている今もなお、窓の外からは雨音が聞こえてきます。

メルちゃんはとってもつまらなそうです。

「ふあぁ…お昼寝しよかな」

「どこか行きたい!!」

「え~?やだよ、雨降ってるし」

「どこか連れてって!!」

「一人で行ってきなよ」

「行ってくるってどこに?」

「あ、じゃあね」

「お散歩してきてさ、何か写真撮ってきてよ」

「で、私に見せてくれるかな」

メルちゃんの顔がぱあっと明るくなりました。

「わかった!!」

メルちゃんは早々に着替えて家を出ていきました。

「元気の塊が出ていったぞ、と」

「…昼寝しよ」

メルちゃんはいつものお散歩コースを歩いています。

でも、今日は雨。

いつもと違った景色が広がっています。

メルちゃんはわざと水たまりを踏んで歩いています。

ぱちゃぱちゃ、ぴちゃぴちゃ…

「雨って、楽しいかも?」

メルちゃんはだんだん楽しくなってきました。

「あ!かたつむりだ!」

アジサイの葉っぱに一匹のかたつむりがいました。

枯れてしまっていますが、かたつむりはそんなのお構いなしです。

「かたつむりさん、こんにちは!」

「ね、写真撮らせてね」

メルちゃんがカメラを構えると、かたつむりは殻にこもってしまいました。

「あ!ちょっと!!」

「かたつむりさん、出ておいで!!」

かたつむりは殻から出てきません。

「ん~、恥ずかしがりさんだなあ」

「…ま、いいか」

「ばいばい!」

相変わらずの雨です。

水たまりの上を歩くのもだんだん飽きてきました。

「何か面白いもの無いかなぁ」

「写真撮らないといけないのに…」

いつもの公園に来ました。

誰も居ないだろう…と思っていたら誰か人影が見えました。

何やらカメラを構えているようです。

「あれ、あのお姉さんもカメラ持ってる」

「何してるのかなぁ?」

遠巻きに見ていると、何かを撮影しているようです。

「聞いてみようかな」

「ねえねえ、何してるの?」

「ん?クモの巣を撮ってたんだよ」

「く、クモの巣!?」

「見てごらん」

「あ、クモはいないから大丈夫だよ」

メルちゃんは指さされた先のクモの巣を見ました。

ですが、普通のクモの巣にしか見えません。

「ねえ、こんなの撮って面白いの?」

「こんなのって…よく見てごらん、水滴がついてキラキラしてるよね」

「あ、たしかに!」

「こういうのってさ、雨の日しか撮れないから」

「すごい!他には何撮ったの?」

「ん?見てもいいよ」

メルちゃんは撮った写真を見せてもらうと、そこには素敵な景色が広がっていました。

水たまりに反射する景色や雨雲から覗く太陽…

どうやらメルちゃんは感銘を受けたようです。

「すごいすごい!!」

「そ、そんなにすごいかな…えへへ」

「写真家になれるよ!!」

「写真家か…」

お姉さんはふと、悲しそうな目をしました。

「どうしたの?その写真、もっと自慢してもいいと思うよ?」

「お姉ちゃんね…写真コンテストに応募しても一向に入賞しないの」

「何かが足りないんだろうね」

「そうなんだ」

「…あれ、あなたもカメラ持ってるね」

「あなたじゃなくてメルって言うんだよ」

「…メルちゃんか、かわいいお名前だね」

「じゃあ…メルちゃん、今日撮った写真見せてくれる?」

「いいよ!」

今日メルちゃんが撮った写真は1枚だけです。

それも、殻にこもったかたつむりです。

「…かたつむりの殻?」

「かたつむりさん動いてたけど殻にこもっちゃったの」

「ね、メルちゃん…どうしてこの写真撮ったのか教えてくれるかな」

「どうしてって言われても、写真撮るのが楽しいからだよ」

「…そっか」

「私だったら…殻から出てくるまで待つかも」

「待ちきれない!!」

「…ふふ、そうかもね」

「ありがと」

「なにが?」

「お姉ちゃんね、メルちゃんに大切なこと…教えてもらったかも」

「?」

「なんでもないよ、じゃ、ばいばい」

「あ!待って!」

「…え?」

「メルの写真撮って!」

「わ、私が?」

「うん!」

「…よーし、ちょっと待ってね」

「どこで撮ろっかな…」

「あそこがいい!!」

メルちゃんが指さしたのは滑り台の上です。

「んじゃ、登ってくれるかな」

「あ、足滑らせないようにね」

「はーい!」

お姉さんはカメラの設定をし終えたようです。

メルちゃんはもうポーズをとって準備万端です。

「じゃ、メルちゃん…撮りまーす」

「はい、チーズ」

パシャッ

「…ねえねえ、撮れた?」

「ん、ばっちりだよ」

「ありがとう!!」

メルちゃんは滑り台を歩いて降りてきました。

「写真見せて!」

「はい、どーぞ」

そこに写っていたのは嬉しそうにピースサインをするメルちゃんでした。

「メルかわいい?」

「ふふ、可愛いよ」

「えへへ、嬉しいな~」

「…ねえ、この写真をコンテストに出してもいいかな」

「いいよ!」

「ありがと、使わせてもらうね」

お別れの挨拶をしてから、メルちゃんは家に向かいました。

「写真を撮るのが楽しい、か」

「私…楽しさなんて忘れてたな」

「メルちゃんを撮ってたとき…すっごくワクワクした」

「写真家なんて諦めようかと思ってたけど、もう少しだけ頑張ってみようかな」

「…メルちゃんありがと」

「ただいま!!」

「あ、おかえり」

「雨やんだ?」

「ちょっとだけ降ってるけど止んできたよ」

「へえ…あ、写真撮ってきたかな?」

「うん!!」

「後で見せてね」

「着替えてくる!」

メルちゃんが戻って来ました。

「さーて、メルちゃんが撮った写真は…っと」

「…ん?」

「どうしたの?」
「これだけ?」

「そうだよ、ほかに面白いものが無かったんだもん」

「かたつむり殻にこもってるし…なんつーか地味だね」

「殻から出てくるの待ちきれなかったんだもん」

「…でも、これメルちゃんらしくて好きかも」

「あ、それでね、公園でね…」

メルちゃんは公園で出会ったお姉さんのことを話しました。

「ふーん、同じような人がいるもんだね」

「で、モデルさんになってあげたんだ」

「かわいく撮れたって言ってたよ?」

「ふーん」

「ふーんってどういうこと!」

「…別に」

「あ、メルのかわいさがうらやましいんだ」

「そんなにかわいいうさぎさんは…」

「がお~!捕まえたぞ!」

「わ!!」

「くすぐりの刑だ~~!!」

「や、やめて…きゃはは!!」

「もっと可愛くなるまでくすぐってやる!」

数日後

「なーんか雨が多いよなぁ」

「梅雨明けたはずなんだけど」

「メルちゃん退屈すぎて寝ちゃったし」

「…スマホでもするか」

「…ん?なんだこれ」

ネットをしていると、とあるサイトにたどり着きました。

「第52回きさらぎ写真コンクール…テーマは『雨』」

「雨のテーマなんて撮るもん無いだろうに」

「大賞は何だろうね」

スクロールしていくと、そこにはお姉さんが撮ったメルちゃんの写真が掲載されていました。

「…え」

「メルちゃんじゃん」

「しかも大賞受賞者は金一封だって」

「え~~~~、少し分けてほしいよぉ」

「私も写真家になろっかな…って、無理だわな」

「おめでとさん、あとでメルちゃんに教えてあげよっと」

一方その頃、公園で出会ったお姉さんは選評結果を見てドキドキが止まりません。

「う、嘘でしょ?」

「私が大賞!?」

「…」

実はあの後、お姉さんは1枚も写真を撮らずに結果発表を待っていました。

今回のコンクールで落選したら写真家を諦める、そう決めていました。

そんな中での受賞です、やはり現実とは思えません。

お姉さんはしばらく使っていなかったカメラの電源を入れました。

撮った写真を見返すと、最後の1枚に写っていたのはメルちゃんです。

「…夢じゃないんだ」

「メルちゃん、だったっけ」

「私頑張るね」

「…本当にありがとう」

おしまい

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