【小説】遊園地

はじめにお読み下さい。




「ねえねえ、早く早く!!」
「ちょ、ちょっと待ってってば」

今日はお出かけの日。
メルちゃんはわくわくして昨日はあまり眠れませんでした。
お耳には大好きな赤いリボン、肩からお気に入りのかばんを下げています。

「…あ、そのリボン付けていくんだ?」
「メルのお気に入りだよ?」
「おばけさんに貰ったリボンだね~」
「ち…ちがうもん」
「うふふ、もう一人のメルちゃんに貰ったんだよね、大切にしてね」
「うん!!」
「ねえまだ?日が暮れちゃうよ~」
「はい、行こっか!」
「…保護者は色々と準備が要るんだよなぁ」
「なにか言った?」
「ううん、何でも無いよ…さあ出発!」

二人は駅まで歩きだしました。
家から10分ほどの距離です。
どこからか、セミの元気な鳴き声が聞こえてきます。

「セミさんは暑くないのかな?」
「それより…メルちゃんは暑くない?」
「大丈夫だよ!」

それでも、これだけ暑いと熱中症が心配になります。

「メルちゃん、日傘さすからちょっと待って」
「うん」
「あ、あとお水飲もっか」
「わかった!」

メルちゃんと一緒に選んだ日傘をさしました。

「飲んだ?」
「うん」
「じゃ、行こっか」

しばらくして、二人は駅に着きました。
人影がちらほらと見えます。

「えーっと、大人一人と子供一人」
「メル子供じゃないもん」
「いいからいいから…はい、切符だよ」

不満そうなメルちゃんに『こども』と書かれた切符を渡します。
メルちゃんが切符を見つめて言いました。

「どうやったら大人になれるの?」
「え?」
「大人はいいよね、お勉強しなくていいから」
「大人は大人で大変だぞ~?」
「そうなの?」
「色々と、ね…はぁ」
「…?」

どうでもいい会話をしているうちに、電車が到着しました。

「あ、メルちゃん電車来たよ」
「かっこいい!!」
「メルちゃん意外と乗り物好きだよね」
「早く乗る!!」
「あ、待ってよ!」

メルちゃんがこけないように手を繋いで乗ります。
車内は空いていたので二人は並んで座りました。

「…」
「ん?どうしたの」
「メルも大人になりたいな」
「またその話?」
「『おとな』の切符を買ったら大人になれるかな?」
「くすっ…そうかもね」
「帰りは『おとな』の切符にする!」
「はいはい、そうしよっか」

電車が動き出しました。
がたごとと揺れながら走っていきます。
しばらくすると、窓の遠くに海が見えてきました。

「あ!!海だ!!」
「ほんとだ、海だね」
「ねえねえ、海に行こうよ」
「え~?今日は遊園地って言ってたでしょ」
「泳ぎたい!!」
「だめだよ、今度ね」
「んー、絶対だよ!?」

メルちゃんは泳ぐのが大好きです。
スイカも大好きですし、花火も大好きです。
夏は遊び場に困りません。
40分ほど電車に揺られると、アナウンスが聞こえてきました。

『◯△駅です。お降りのお客様は…』

「あ、着いたよ」
「行こっか」
「うん!」

二人は電車から降りました。
駅から出ると、そこはすぐ遊園地です。
メルちゃんは一目散に走っていきました。

「すごい!!」
「あ!ちょっと待ってってば!!」
「子供は元気だなあ…」
「子供になるにはどうしたら良いんだろうね?」
「…はぁ、どうでもいいか」
「ねえねえ、早くチケット買って!」
「ちょっと待ってね…っと」
「はい、いらっしゃいませ~」
「んと、大人一人と子供一人」
「メル子供じゃな…」
「はいはい、そうだね…あ、いくらですか?」
「合わせて1,900円です」
「…はい、ありがとうございます!いってらっしゃーい!」
「…高いなオイ」
「なにか言った?」
「ん、何でもないよ…ほら、観覧車が見えるぞ~?」
「あ!すごい!!」

祝日というのもあり、かなり賑わっています。
風船を持った子供、買ってもらったシャボン玉を吹く子供…
みんなとても幸せそうな顔をしています。

「…私も人を幸せにする仕事に就きたかったなぁ」
「ねえ、さっきからどうしたの?」
「あ、ごめん…ここに居るときぐらい現実逃避したいよね」
「げんじつ…?」
「ごめんね、行こっか」

二人は案内図を見ています。
それにしても広い遊園地です。
ジェットコースターにメリーゴーランド、一通りの遊具は揃っています。

「ね、どこに行きたい?」
「ぜんぶ!!」
「…は無理だから、一番行きたいのはどれかな?」
「えーっとね、観覧車に乗りたい!!」
「んじゃ、それだね」
「はい、こんにちは」
「気をつけて乗ってくださいね~」

二人は観覧車に乗りました。
ゆっくりと上昇していきます。

「メルね、高いところ好きなんだよ」
「へぇ、そうなの?」
「景色がいいから!」
「意外だな、メルちゃん怖がりだから高いところ苦手かと思ってた」
「こ、怖がりなんかじゃないもん」
「大人は怖がりじゃないぞ~?」
「えっ、メルおとなになれないの…?」
「嘘だよ、私だって怖いものはあるよ」
「たとえば?」
「え~?内緒かな」
「ずるい!!」
「あ、じゃあ…おばけやしきに入れたら教えてあげよっかな」
「お、おば…」
「メルちゃんどうする?」
「やだ…」

よほどおばけが嫌いなようです、メルちゃんは泣きそうな目をしています。

「ご、ごめんってば」
「あ、ほら…遠くに海が見えるよ」
「…ほんとだ!!」

田園風景の広がる中、かなり遠くの方に海が見えます。
メルちゃんはやっぱり海が好きなようです。

「ね、今度は海に行く?」
「いく!!」
「約束だよ?」
「ん、分かった」

観覧車から降りた二人は入り口で貰ったパンフレットを眺めました。

「それにしても広いなあ」
「…ん?どうしたの?」
「メルおなかすいた」
「何か食べよっか」
「うん」

売店に向かうと、美味しそうな食べ物がずらりと並んでいました。

「わ、すごい!!」
「どれがいいかな?」
「えーっとね、これ!!」
「座って待っててね」
「…はい、お待たせ!」
「おかえり!!」

買ってきたのはポテトとホットドッグです。
それと、メルちゃんの大好きなメロンソーダです。

「ねえねえ、食べても良い?」
「…あ、その前に」
「なあに?」
「写真撮ってもいい?」
「撮って!!」

メルちゃんはあまりにも嬉しそうな顔をしています。
写真を撮らずには居られませんでした。

「何か持ってくれるかな?」
「じゃあ…メロンソーダ!!」
「撮りまーす…はい、チーズ」
「…」
「撮れた?」
「うんうん、メルちゃんいい顔してるよ」
「じゃ、食べよっか」
「うん!!」

メルちゃんは幸せそうにホットドッグを頬張っています。
子供はホットドッグでこんなにも幸せになれるのか、ふと思いました。

「…」

気がつくと涙が出ていました。

「…あれ?どうしたの?」
「な、なんでもないよ…」
「だって泣いてるよ?どこかいたいの?」
「大丈夫だよ…ごめんね」
「?」

ずっとこんな時間が続けばいいな、そう思いました。

「食べないの?」
「あ、ごめんごめん…いただきまーす」

ポテトをかじりながらさっき撮った写真を見返しました。

「…っ!!」

そこに写っていたのは満面の笑みをしたメルちゃんです。

「…ねえ、どうしたの?」

本人に心配されてまたしても泣いてしまいました。

「なんか変だよ?ぐあいがわるいの?」
「なんでもないからね…ぐすっ」
「…大人って、たいへんなんだね」
「…え?」
「メルやっぱり子供でいいかな…」
「…」
「ほ、ほら…はやく食べて遊びに行こっか」
「うん」

氷が溶けて薄まったコーラを飲み終えました。
メルちゃんはお腹いっぱいと言った様子です。

「で、どこ行く?」
「えーっとね…」

二人はそれから、疲れ果てるまで遊び回りました。
時々メルちゃんの写真を撮るのも忘れずに。
そして、閉園時間になりました。

「楽しかったね」
「うん!!」

メルちゃんはくまのぬいぐるみを抱いています。
くじ引きで当たった一等賞です。
500円で引いた、買うと高そうなぬいぐるみです。

「メルちゃん、くまさんに名前つけた?」
「付けたよ!」
「え、教えてほしいな~」
「えっとね…ショコラちゃん!!」
「可愛い名前だね…くすっ」
「あ、もうこんな時間…電車に遅れちゃう」
「メルちゃん、帰ろっか」
「うん!!」

帰りの電車で、メルちゃんは寝てしまいました。
ショコラちゃんを大切そうに抱っこしながら。

「また、来ようね」

そっとささやいて、メルちゃんの頭をなでました。

おしまい

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