【小説】おたんじょうびおめでとう

はじめにお読み下さい。



今日はメルちゃんにとって特別な日です。
何かって?
そう、今日はメルちゃんのお誕生日です。
一年に一度しかやってこない、とっても大切な日です。
前日の夜、お姉ちゃんとこんな会話をしていました。

「メルちゃん、明日はお誕生日だね」
「うん!」
「楽しみ?」
「とっても楽しみ!」
「じゃあ聞くけど、何が楽しみ?」
「えっとね、ぜんぶ!!」
「そっか、じゃあ明日は素敵な日になると良いね」
「メルわくわくして眠れないかも…ふあぁ」
「くすっ…あくびしてるじゃん」
「いい子は早く寝ようね」
「…うん」

でも、ベッドに入ったら目が冴えてきて眠れませんでした。

「ケーキ食べれるかなぁ?」
「プレゼントもらえるかなあ?」
「みんなにお祝いしてもらえるかなあ?」
「わくわく…」
「…」

ピピピッ

「…!!」

アラームが鳴ると、メルちゃんは飛び起きました。
時計の日付は9月20日になっています。
メルちゃんのお誕生日です。

「お姉ちゃんおはよう!!」

メルちゃんがここ最近で一番元気よく起きてきました。
二番目に元気だったのは遠足の日だったでしょうか。

「あ、おはよう」
「ねえねえ、メルお誕生日だよ!」
「おめでとうって言って!」
「自分で言うのも珍しいね」
「じゃあ…」
「メルちゃんおめでとう!!」
「わ!!」

お姉ちゃんが思い切り抱きしめてきました。
メルちゃんは苦しそうです。

「お姉ちゃんね、メルちゃんと居られてとっても幸せなの」
「ぐ、ぐるじい…」
「あ、ごめん」

メルちゃんを放してから、お姉ちゃんはメルちゃんをなでました。

「メルちゃん今日はどんな一日になるかな?」
「みんなおめでとうって言ってくれるかな?」
「うふふ…きっとそうだね」
「ほら、遅刻しちゃうから…ご飯食べて準備しよっか」
「うん!!」

メルちゃんが朝食を済ませてお着替えしていると、お姉ちゃんがお部屋に入ってきました。

「メルちゃん、ちょっといい?」
「なあに?」
「これ…プレゼントだよ」

小箱に入った何かを受け取ると、メルちゃんは目を輝かせました。

「あ、開けてもいい?」
「開けないと中身がわからないじゃん」

がさがさ…
中にはリボンが入っていました。
実はこれ、この前メルちゃんが欲しがっていたものです。

「お姉ちゃん、これほしい」
「リボン?いっぱい持ってるのに?」
「いっぱい欲しいの!!」
「しかも…高っっっ!!」
「今の私には買ってあげられないよ~」
「んー…我慢する…」

メルちゃんはさっそくお耳に付けてもらいました。
シンプルな赤いリボンです。
しかし、刺繍が施されておりどこか気品を感じます。
いわゆるブランド物です。

「メルちゃん、ちょっぴり大人な気分だね」
「…」
「ん?」
「メルうれしい!!」

メルちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでいます。
それを見てお姉ちゃんも心が跳ねるのを感じました。

「行ってきます!!」
「行ってらっしゃい!」

仲良しのお友達と登校する途中のことです。

「あ、メルちゃん今日誕生日だったっけ」
「そうだよ!」
「おめでとう~」
「ありがとう!」
「ねえねえ、プレゼントとかもらった?」
「うん、今付けてるリボンだよ」
「いいなぁ、わたしも今日が誕生日だったらなあ」
「メルもね、毎日誕生日だったらなあって思うの」
「あはは、一緒だね!」

クラスが違う二人は分かれて教室に入りました。
朝の会が始まると…

「はい、皆さんおはようございます」
「えっと、健康観察をします」
「出席番号1番の…」

メルちゃんの番がやってきました。

「えっと次は…メルちゃん」
「はい!げんきです!!」
「お、メルちゃん元気がいいね」
「うん!!」
「メルちゃん、今日はもしかして…」

ぱちぱちぱち…
クラスのみんなが拍手しています。
メルちゃんはちょっぴり恥ずかしそうです。

「メルちゃんお誕生日おめでとう」
「素敵な一年になると良いね」
「えへへ」
「お誕生日の子には…はい、どうぞ」

先生はメルちゃんの胸元にバッジを付けてあげました。
お星さまの形をした、綺麗なブローチです。
学校では「お誕生日バッジ」と呼んでいます。

「ありがとう!!」

朝の会が終わると、クラスのみんながメルちゃんの席に集まってきました。

「メルちゃんお誕生日おめでとう!」
「ねえねえ、何才になった?」
「プレゼントは貰った?」
「ケーキはもう食べた?」
「え、えっとね…」

メルちゃんは質問に答えるのにとっても忙しそうです。
でも、とっても嬉しそうです。
胸元のお誕生日バッジが輝いています。

「…はい、みなさん授業を始めまーす」
「一時間目は国語です」
「教科書の20ページを開いて…」

下校時間になりました。
メルちゃんは走っておうちに帰りました。
お誕生日には欠かせない何かを楽しみにしているのです。

「ただいま!!」
「あ、おかえり」
「どうだった?」

メルちゃんはいつになくニコニコしています。

「あのね、今日はね…」

その日学校であったことを話してくれました。

「うふふ、良かったね」
「メルお腹すいた…」
「あ、ご飯食べよっか」
「今日のご飯はなあに?」
「今日はね…お料理しません!」
「…え?」

メルちゃんがきょとんとしています。
お姉ちゃんは笑ってしまいました。

「ご飯食べれないの?」
「あはは、ごめんね」
「今日はね、お外でご飯食べようね」
「お外で?」
「外食ってやつ」
「メルちゃん何でも好きなもの食べていいからね」
「やった!!」
「じゃ、行こっか」
「うん!!」

二人はちょっと高そうな小料理屋に入りました。
店員さんがメニューを持ってくると、メルちゃんがお姉ちゃんに言いました。

「ねえねえ、ほんとに何でも食べてもいいの?」
「お姉ちゃん嘘つかないよ」
「じゃあ全部!」
「食べられるものだけにしてくださーい」
「えー、じゃあ…」

メルちゃんは真っ先にオムライスに目が行きました。
しかし、『高級デミグラスソース使用!懐かしの味オムライス』と書いてあります。
ものすごく美味しそうに見えますが…

「メルちゃん、決まった?」
「…ほんとにどれでもいいの?」
「うん」
「でも高いよ?」
「どれがいいの?」
「これ」
「…うふふ、今日は特別だからね」
「お姉ちゃんはどれにしたの?」
「ん?お姉ちゃんはカツカレーにしようかなって」
「…」
「どうしたの」
「メルもそれがいいかも」
「え~、メルちゃんもカツカレーにするの?」
「食べたい…」
「あ、じゃあ両方頼んで半分こしようよ」
「…うん!!」

しばらくして、料理が出てきました。
出来立てでとってもいい匂いがしています。

「いただきます!」
「はい、召し上がれ…私が作ったわけじゃないけどね」

オムライスを一口食べると、いつもお姉ちゃんが作ってくれるものとは違う味がしました。
卵はとろけて、ソースも高級なのが分かります。

「メルちゃんどう?」
「もぐもぐ…」
「うふふ、おいしいってことね」
「メルそっちもたべたい」
「あ、いいよ」

食べ終えたところで、お姉ちゃんが『お誕生日バッジ』に気づきました。
みんなが触ったせいで、ちょっとずれています。

「あれ、メルちゃんそれどうしたの?」
「先生にもらったの」
「綺麗だね」
「お姉ちゃんに貰ったリボンもね、みんなに褒めてもらったよ」
「それは嬉しいなあ」

ずれたバッジを直してあげました。
すると、お姉ちゃんにとってバッジがやけに輝かしく見えてきました。

「…メルちゃん」
「?」
「また一つ年をとっちゃったね」
「だめなの?」
「…なんでもないよ」
「メルね、はやく大人になりたいの」
「ん、どうしてかな」
「メルも魔法が使いたいから」
「ま、魔法?」
「アニメに出てくる人はみんな魔法使ってるの」
「…くすっ、そうだね」
「あ、そろそろ出よっか」

おうちに帰ってから、二人はケーキを食べました。
メルちゃんはモンブラン、お姉ちゃんはチーズケーキです。
途中でメルちゃんが両方欲しくなって半分こしたのは言うまでもありません。

「メルちゃんもうこんな時間だね」
「ねむい…」
「はい、いい子は早く寝ましょうね」
「おやすみなさい…」

メルちゃんはベッドに入るとふと考え事をしました。
寝ると明日になって、お誕生日が終わってしまいます。

「…寝たら明日がきちゃう」
「メルずっとお誕生日がいいな」
「寝なかったらいいのかな?」
「そしたら、明日もおめでとうって言ってくれるかな」
「明日もケーキが食べたいな」
「明日も…」
「…すぅすぅ」

一方、お姉ちゃんはまだ起きていました。
時計を見てぼーっとしています。

「メルちゃんお誕生日終わっちゃうね」
「次は一年後かぁ」
「どうなってるのかな」
「メルちゃんテストで良い点とってくれるかな?」
「…あ」

机の上に、朝プレゼントしたリボンが置いてあるのに気づきました。

「置いたままじゃん」
「まったく、リボンコレクションの箱に入れておいてよね」
「…」

お姉ちゃんはリボンを手に取りました。

「…メルちゃん」
「生まれてきてくれてありがとう」

おしまい

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