【小説】もうひとりのメルちゃん(3/3)

前回の続きです。




「わぁ!すごい!!」

メルちゃん一行はひまわり畑に来ました。
あたり一面に満開のひまわりが自慢げに咲き誇っています。

「ねえねえ、なんでみんな同じ方向を向いてるの?」
「それはね…ひまわりは太陽の方向を向いて咲くんだよ」
「不思議だね!」
「そうだね、不思議だよね」
「まぶしくないのかなあ?」
「きっと、太陽の光が嬉しいんだよ」

メルちゃんは持っていたカメラで写真を撮り始めました。
真っ青な青空とひまわりの黄色のコントラストがとっても素敵です。
空には入道雲も出ています。

「メル、写真家になろっかな~」
「今度お友達に見せてあげよっと!」

メルちゃんは夢中でシャッターを切っています。
100枚は撮ったでしょうか、メルちゃんはとっても嬉しそうです。
写真を撮り終わったメルちゃんが戻ってきました。

「おかえり、どうだった?」
「見て見て!こんな写真が撮れたんだよ」
「どれどれ…お~、すごい綺麗だね」
「でしょ!メルね、写真家になろっかな~って思った!」
「そうだね、メルちゃん意外と向いてたりして?」
「…あ、そうだ」
「なあに?」
「メルちゃんの写真も撮ってあげる」
「撮って!!」

メルちゃんは一目散にひまわり畑のほうへ走っていきました。

「ここがいいかな?」
「うーん、ちょっとひまわりが高いかな」
「メルちゃん背が低いんだもん」
「そ、そんなことないもん!」
「くすっ、こっちのひまわりは背が低いから…こっちにしよっか」
「うん!」
「はい、こっち向いて…」
「撮りまーす…はい、チーズ」
「…」
「撮れた撮れた??」
「見てみる?」
「見せて!!」

写真にはメルちゃんと同じぐらいの背丈のひまわりが写っています。
背景の入道雲も合わさり、それはそれは素敵な写真が撮れていました。
何よりも、メルちゃんが満面の笑みをしています。
見る人を笑顔にさせる写真とはまさにこのことを言うのでしょうか。

「メルちゃんとっても嬉しそうな顔してるね」
「ねえねえ、メルかわいい?」
「そうだね、とっても可愛いよ」
「…あ」

メルちゃんは、自分のお耳に付いている赤いリボンに気が付きました。
夢の中のメルちゃんに貰ったリボンです。

「リボン付けてたんだった」
「忘れてたの?さっきからずっと付いてるよ」
「これね、メルのリボンランキングの一位なんだよ」
「そんなのあるんだ」
「うん」

自慢のリボンコレクション総選挙で一位を取ったリボンのようです。
メルちゃんはそっとお耳からリボンを外しました。
太陽の光が反射して宝石がきらきらと輝いています。
商品タグも何も付いていない、ただただ真っ赤なリボンです。

「これ、どこで売ってるんだろう?」
「え?どうしたの」
「ほかの色が欲しくなった」
「何色がいい?」
「んーとね、水色!!」
「そっか、帰りにお店に行ってみる?」
「行く!!」

帰り際に二人は商店街に足を運びました。
似たようはリボンはありますが、これだ!というリボンは見つかりません。

「えー、どこで売ってるのかなぁ」
「外国で売ってるリボンだったりして」
「そうなの?」
「それか、誰かの手作りか…」
「妖精さんが作ってくれたのかなぁ」
「かもね」

その後も何店か回ってみましたが、結局良いリボンは見つかりませんでした。

「ただいま!!」
「はい、おかえりなさい」

昼すぎになって、二人はお家に帰ってきました。

「メルちゃん、お家に帰ったらまず何をするんだっけ?」
「えっとね、おててを洗ってうがいをしてね…」
「うんうん、それから?」
「おやつ!!」
「くすっ、メルちゃん食いしん坊だね」
「じゃ…お着替えしてから戻ってきてね」
「うん!!」
「おやつ食べる!!」
「はい、どうぞ」
「やった!!」

今日のおやつは商店街で買ってきたドーナツです。
メルちゃんのお気に入りはどれでしょうか。

「どれがいい?」
「これ!!」
「あ、私もそれが良いと思ってたのに」
「じゃあ、はんぶんこする」
「わ、メルちゃん優しいね…ありがと」

二人はドーナツを食べながらおしゃべりしています。
ひまわり畑のこと、商店街のお店のこと、そして赤いリボンのこと…
何よりも、メルちゃんは赤いリボンのことがどうも気がかりなようです。

「…」
「ん?どうしたの」
「このリボン、やっぱり不思議だよね」
「妖精さんに貰ったリボンだよね、どうかしたの?」
「ほんとに妖精さんが作ってくれたのかなあ」
「それは、私には分からないなぁ~」

午後3時になりました。
メルちゃんは急に眠くなってきました。

「…メルね、眠くなってきた」
「お昼寝する?」
「うん」
「こっちで寝ようね」
「いっしょに寝る…」
「わ、私はまだ眠くないから…」
「…むにゃむにゃ」

メルちゃんはすぐに寝てしまいました。

「それにしてもかわいい寝顔だこと」
「写真撮っちゃおっと…うふふ」
「水色のリボン、か」

メルちゃんは気がつくと再び森の中に居ました。

「!!!!」

メルちゃんはあの森の中にいることにすぐに気がついて、すぐにもうひとりのメルちゃんを探し始めました。
「出ておいで!メルちゃーん!」

すると…

「こっちだよ」
「え?」

声のする方を向くと、なんとそこにはもうひとりのメルちゃんが居ました。

「あ!!!!」
「メルちゃん、久しぶりだね」
「メルだ!!やった!!」
「あのね、メルね、メルちゃんにとっても会いたかったんだよ?」
「メルもメルちゃんに会いたかったよ」
「わぁ~~、また会えて嬉しい!!」
「そ、そんなに嬉しいかな?」
「いっぱい嬉しい!!」

二人はさっそく遊び始めました。
咲いていたお花で恋占いをしてみたり、川辺で水遊びをしてみたり…
初めて出会った時の楽しさと変わりません。
こんな時間がずっと続けばいいのに…
メルちゃんは心の底からそう願いました。
ふと、メルちゃんが切り出しました。

「…ねえ」
「どうしたの?」
「…」
「やっぱり、消えちゃうの?」
「…ごめんね」
「え」
「メルはね、この世界の人じゃないの」
「夕方になったらね…お迎えがきちゃうんだ」
「…そっか」
「でもね、大丈夫だよ」
「こうしてまた出会えたんだから」
「…だよね」
「毎日会いたいな」

メルちゃんはすごく悲しそうな顔をしています。
もうひとりのメルちゃんは、なんだか申し訳無さそうな顔をしています。

「まだ夕方じゃないから、いっぱい遊ぼうよ」
「…うん!!」

気がつくと、時刻は夕方になっていました。
夢中で遊んでいた二人はすっかりどろんこです。

「また遊ぼうね」
「…約束だよ?」
「うん…」

二人はどうも悲しそうです。
ふと、もうひとりのメルちゃんが何かを差し出しました。

「これ、あげる」
「…え?」

もうひとりのメルちゃんの手には、綺麗な水色をしたリボンがありました。
中央にはお花模様の刺繍がしてあります。

「く、くれるの?」
「うん」
「ありがとう!!」
「メル大切にするからね」

ふと、もうひとりのメルちゃんの体が透き通っているのに気が付きました。

「あ!!」
「…お別れの時間かな」
「ほんとに行っちゃうんだね」
「…うん」
「また会えるよね?」
「きっと、大丈夫」

もうひとりのメルちゃんは優しく微笑みました。
それでも、メルちゃんは悲しくなって泣いてしまいました。

「お別れしたくない…やだ!!」
「大丈夫だよ、また会えるからね」
「もっと遊びたい…!!」
「…またね」

もうひとりのメルちゃんはすっかり消えてしまいました。
メルちゃんは一人ぼっちです。

「…」

貰った水色リボンを見つめています。

「…ちゃん?」
「…え?」

遠くから何か聞こえてきました。

「だ、だれ…?」



「メルちゃん!」



「!!!!」
「も~、メルちゃんお寝坊さんだね」
「あれ、メル森の中で…」
「森って…お昼寝してたでしょ?もう夕方だよ」
「…そっか」
「あれれ?メルちゃんそのリボンどうしたのかな?」
「え?」

メルちゃんのお耳には…なんと、夢に出てきた水色リボンが付いていたのです。

「…あ!!!!」
「そんなリボン付けてたっけ?」
「ねえねえ、ぜったいおかしいよ」
「妖精さんじゃないって!!」
「じゃあおばけさんのしわざかな」
「ちっ…ちがうもん!!!!」

メルちゃんは混乱しています。
寝る前に付いていなかったリボンが、起きたら付いているのです。
こんな不思議なこと起きるはずない…そう思いました。

「メルお昼寝するの怖くなってきた…」

メルちゃんは泣き出してしまいました。

「…言ってもいい?」
「え」
「言うって何を…?」
「それね、私がやったんだよ」
「…え??」
「だって、メルちゃんお昼寝してるときお耳がぴょこぴょこしてて可愛いんだもん」
「ぴょこぴょこしてないもん」
「気づいてないだけでーす」
「でね、寝てても聞こえてるのかな?って思って」
「この前は『赤いリボン、赤いリボン…』ってささやいてみたの」
「…!!」
「こっそりお耳に赤いリボンを付けて、ね」
「そしたらメルちゃん、夢の中に出てきたって言うんだから面白くなっちゃって」

メルちゃんはあ然としています。

「じゃ、じゃあ…妖精さんのせいじゃなかったってこと?」
「そうだね、私のせいでした~」
「な…なんかやだ!!」
「やだってどういうこと?」
「なんかろまんちっくじゃない!!」
「へぇ~、どこでそんな言葉覚えたのかな?」
「いいから!!」

「あ、じゃあね…」
「今度は『おばけ、おばけ』ってささやいてあげる」
「だっ…」



「だめ!!!!」



メルちゃんは今日も元気です。

おしまい

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