【小説】魔法少女☆メルちゃん

はじめにお読みください。





五じかん目はこくごです。
しょうらいのじぶんのゆめについて、みんながしんけんに作文をしています。
しばらくすると、せんせいが言いました。

「みんな作文はできたかな?」
「できた人は、みんなの前ではっぴょうしてみましょう」
「じゃあ、手をあげて下さーい」

みんながいっせいに手をあげました。

「◯◯ちゃん!」
「はい!」
「わたしのしょうらいのゆめは、パティシエになることです」
「とびきりおいしいケーキを作って、みんなをえがおにさせたいです」
「すてきなゆめですね、みんなはく手!!」

メルちゃんはみんなにはく手されているのを見てうらやましくなりました。

「じゃあ、つぎの人いるかな?」

みんながげんきよく手をあげています。

「じゃ、メルちゃん!」
「はい!!」
「メルのゆめは、まほう使いになることです」
「…ん?」
「続きは?」
「思いつかないの」

どうやら、これはメルちゃんが書いた小説だったようです。
ここでお話が途切れています。

「習ってない漢字がひらがななの…かわいい~~」
「だって分からないんだもん!!」
「まほうって漢字はどうやって書くの!!」
「秘密でーす」
「魔法少女になりたいだなんて、メルちゃんおこちゃまだなあ」
「お、おこちゃま!?」
「魔法なんて使えるわけ無いじゃん」
「そんなこと無いもん!!」
「お姉ちゃん知らないんだ、アニメの女の子は魔法使ってるよ?」
「メルね、毎日公園で空を飛ぶ練習してるんだよ?」
「でもね、いつまで経っても飛べないの…」
「か…」
「かわいい~~」
「もう!!」

メルちゃんは腹を立てています。
一方のお姉ちゃんは終始にやにやしています。
メルちゃんをからかうのが楽しくてたまらないといった様子です。

「大人はね、実は魔法が使えるんだよ」
「え!!」
「どうして教えてくれないの?」
「みんな隠してるんだよ」
「お姉ちゃん空を飛べるの!?」
「魔法でいつでもオムライスが出せるの!?」
「うふふ…どうかなあ?」
「メルも早く大人になりたい!!」
「じゃ、ピーマン食べられるようにならないと」
「え…」
「何でも食べられないと大人になれないぞ~?」
「…」

気がつくともう夜の10時になっていました。
子供はもう寝る時間です。

「あ、メルちゃん寝る時間だよ?」
「…まだ眠くないもん」
「そうだよね、メルちゃんお空を飛ぶ練習しないとね~」
「おっ…お姉ちゃんのいじわる!!」

メルちゃんは怒ったのか、そのままお部屋に入ってしまいました。

「あ!」
「ちょっと遊びすぎたかな」
「明日謝らなきゃ」
「もう、メルちゃん可愛いんだから」

お姉ちゃんはふと遠い目をしました。

「あの小説の続きってさ」
「どうせ、クラスのみんなに笑われて恥かいておしまいだよね」
「メルちゃん笑われて、みんなの前で泣いちゃたりして」
「大人ならそう書くわな」
「メルちゃんは…続きをどう書くのかな」
「…魔法、ね」

『…お姉ちゃん見て、四つ葉のクローバー見つけた!!』
『わ、すごいじゃん!!』
『ねえねえ、いいことあるかな?』
『くすっ、きっとあるよ』

「魔法なんてこの世に存在するのかな」

『…お姉ちゃんの作るオムライスだいすき!!』
『それは嬉しいなぁ~』
『だって、おいしいんだもん!!』
『くすっ…メルちゃんほっぺにケチャップ付いてるよ』

「そんなもの…」

『…今日はね、お姉ちゃんと一緒に寝てあげる!!』
『寝てあげる?』
『そうだよ!!』
『くすっ、お姉ちゃんと一緒に寝たいんじゃないの?』

「…」
「お姉ちゃん、か」
「こんな私に懐いてくれて嬉しいよ」
「メルちゃんといると…笑顔になれる」
「たまに悪さするけど…そんなメルちゃんが大好き」
「…」

気がつくと深夜になっていました。
大人はもう寝る時間です。

「…おやすみ」

朝になりました。
テレビを見てぼーっとしていると、メルちゃんも起きてきました。

「あ、おはよう…」
「…」

メルちゃんは何も言いません。
昨日の件で、まだ怒っているのでしょうか。
お姉ちゃんは心配になりました。

「あのね、メルちゃん…」
「昨日はからかってごめんね」
「…」
「お姉ちゃんね、分かったの」
「…なにが?」
「メルちゃんが魔法使いだってこと」

とたんにメルちゃんが怒り出しました。

「お姉ちゃんのいじわる!!」
「やっぱりメルのことばかにするんだ!!」

メルちゃんは目に涙を浮かべています。
しかし、お姉ちゃんは真面目な顔をしています。

「ねえメルちゃん、お姉ちゃん馬鹿にしてなんかないよ」
「メルちゃんは魔法使いなんだよ」
「だからなに!!」
「お姉ちゃんね、メルちゃんと一緒にいると笑顔になれるの」
「…」
「メルちゃんのこと大好きなの」
「…」
「メルちゃん…お姉ちゃん嫌いになったかな?」
「…そんなことないもん」
「よかった」

メルちゃんはまだ不機嫌そうな顔をしています。

「メルちゃんの魔法はね、みんなを笑顔にさせることだよ」
「笑顔…?」
「明るいメルちゃんといるとね、自然と笑顔になるの」
「だから…怒らないでほしいな」
「メル…魔法が使えるの?」
「そうだよ」
「…魔法使いメルちゃん」

とたんにメルちゃんの顔がぱあっと明るくなりました。

「メル魔法使いなんだ!!」
「くすっ、そうだね」
「お姉ちゃんね、いつも明るいメルちゃんが大好きだよ」
「メルも…お姉ちゃんのこと大好き!!」

その夜、メルちゃんは小説を書きました。
書いている途中で眠くなったのか、机でそのまま寝てしまいました。

「あ、メルちゃんに言う事あったんだ」
「メルちゃーん」

お姉ちゃんがお部屋に入ると、メルちゃんはまだ机で寝ていました。

「あ、こんなとこで寝てるし」
「お勉強してたのかな…っと」

机に散らかっていたのは原稿用紙です。
ごみ箱には、昨日メルちゃんが書いていた小説がぐしゃぐしゃにして捨ててありました。

「はぁ…もうちょいお勉強して欲しいんだけどなぁ」
「可愛いメルちゃんを見ているとねぇ…あんまり強く言えないんだよなぁ」
「テストの点でお姉ちゃんを笑顔にさせて欲しいよ」
「…ベッドで寝かせるか」

メルちゃんを優しく起こすと、大あくびをしました。

「あれ、メルねてたの…?」
「メルちゃん、ベッドでねんねしようね」
「うん」

メルちゃんをベッドに寝かせると、すぐにすやすやと寝息を立てて寝てしまいました。
こっそり原稿用紙を見ると、タイトルだけ書いてありました。

『まほう少女メルちゃん』

お姉ちゃんは思わず笑ってしまいました。

「もう、メルちゃんったら!!」

お姉ちゃんはメルちゃんにそっとささやきました。

「メルちゃんは、立派な魔法使いだね」

流れ星がつぅっと、夜空を走り抜けました。

おしまい

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