はじめにお読み下さい。
本小説は以下の続編になります。
お姉ちゃんは寝ているメルちゃんをベンチにそっと座らせました。
くたっと下を向いて寝ている様子が可愛くてたまらないようです。
「あーあ、子供はいいよなぁ…」
「生きてるだけで可愛がられてさ」
「私が最後に可愛いって言われたの…いつだっけ」
ふと、メルちゃんがさっき持ってきてくれた赤い葉っぱのことを思い出しました。
かばんから小説を取り出します。
「…メルちゃん寝てるから、ちょっとだけ読もうかな」
小説に挟んでいた葉っぱを優しく手に取り、座っていたベンチの横に置きました。
一体どんな小説を読んでいるのでしょうか。
「…んー」
「なんか気が向かないな」
「メルちゃん…は寝てるな」
お姉ちゃんはどうにもメルちゃんのことがずっと頭から離れないようです。
本を読んでる間に起きてどっかに歩いて行っちゃったら…そんなふうなことを考えているのです。
「やーめた」
すぐに葉っぱを本に挟んでかばんにしまいました。
喉が渇いたので自分に水筒を出して飲みました。
「…ん、氷溶けちゃってるし」
「おっかしいな、断熱機能とか書いてあった気がするんだけど」
「やっぱ安物はだめだな…」
メルちゃんのほうの水筒はというと…
「お、氷溶けてないね」
「安物買いの…なんとやら」
「はぁ、自分にもお金使わないとな」
お姉ちゃんはメルちゃんのことが大好きです。
買うものすべて、ちょっぴりお高いものを選んでいます。
自分なんて二の次、三の次です。
「…んー」
「あ、メルちゃんおはよう」
メルちゃんが目を覚ましました。
お姉ちゃんのほうを見つめています。
「どうしたのメルちゃん、帰りたい?」
お姉ちゃんのかばんをつついています。
喉が乾いたのでしょうか。
「あ、ちょっとまってね」
「えーっと…はい、メルちゃんのやつ」
水筒を手渡しましたが、メルちゃんは首を横に振りました。
「え、違うの?」
「何かな、教えてくれる?」
「はっぱ」
「葉っぱ…あ、はいはい」
「ちょっと待ってね」
メルちゃんは自分が見つけた葉っぱのことが気になったようです。
手渡した葉っぱをじーっと見つめています。
少し虫食いの穴が空いていますが、そんなの気にしないようです。
「メルちゃん、綺麗な葉っぱだね」
「あか!!」
「そうそう、赤色だね」
しばらく見つめて満足したのか、メルちゃんは葉っぱを返してきました。
「さて…メルちゃん、何する?」
「おうちに帰ってもいいよ」
「あっち」
メルちゃんが指したのは、小川でした。
今いる公園のすぐ横に小さな川が流れており、夏になると子供が楽しそうに水遊びします。
「ちょっと行ってみる?」
「いく!!」
メルちゃんはすっかり目を覚ましたようです。
お姉ちゃんと手を繋いでゆっくり歩いています。
小川に来て、お姉ちゃんはちょっと驚きました。
しばらく雨が降っていないので、いつも見る様子と違って水量が減っていたのです。
しかし、ちっちゃなメルちゃんには遊ぶのにちょうど良さそうです。
「メルちゃん、ちょっとお水遊びする?」
「…あ!ちょっと待って!」
手を離すとメルちゃんは一目散に走っていきました。
川辺でしゃがんで何かをしています。
「メルちゃん、冷たい?」
メルちゃんは手でぱちゃぱちゃと水をかき混ぜています。
なんだかとっても楽しそうです。
お姉ちゃんも真似してみました。
「…あんまり冷たくはないね」
「はい!!」
「え?」
メルちゃんがお水をすくってお姉ちゃんのほうを向いています。
少しずつ水が漏れています。
「メルちゃんすごいじゃん、上手にすくえるようになったんだ」
「えへへ~」
しばらく水をかき混ぜて満足したのか、お姉ちゃんのほうを向きました。
「もういい?」
「ん」
「はい、ハンカチ」
お姉ちゃんはメルちゃんの両手を拭いてあげました。
「だっこ」
「うふふ、メルちゃん甘えん坊さんだね」
ハンカチをしまってメルちゃんを抱っこしました。
スカートのすそがちょっと濡れています。
どうやらしゃがんで川辺に浸してしまったようです。
「メルちゃんそろそろおうちに帰ろっか」
「んー」
「歩く?」
「だっこ」
「くすっ、じゃあおうちに帰ろうね」
メルちゃんを抱っこしたまま歩くことになりました。
まだ軽いとはいえ、ずっと抱っこしているとさすがに疲れてきます。
「メルちゃん、ちょっと疲れたよ~」
「あるく!!」
「お、じゃあ降ろすよ…よいしょっと」
メルちゃんを降ろして手を繋ぎました。
「メルちゃん、今年は雪が降るといいね」
「ゆき?」
「そう、雪だよ」
「あめ、やだ!!」
「あはは、雨は嫌いなの知ってるよ」
メルちゃんはよほど雨が嫌いなようです。
何かイヤな思い出があるようです。
「ふぅ、到着!!」
「とうちゃく!!」
行きと同じ道を歩いて帰ってきました。
お姉ちゃんはメルちゃんの靴を脱がせています。
「メルちゃん靴がちょっと汚れてきたね」
「新しいやつ買おうかなぁ」
「…はい、いいよ~」
手洗いうがいをすませると、メルちゃんはカーペットの上に寝転がりました。
疲れたのでしょうか。
「お出かけできてよかったね」
「ん、どうしたの?」
メルちゃんが何か言いたそうです。
かばんのほうを見ています。
「…あ、葉っぱかな」
「はっぱ!!」
小説に挟んでいた葉っぱをメルちゃんに手渡しました。
真っ赤で、少し虫食い穴の空いた葉っぱです。
よく見ると、裏面は赤と黄色のグラデーションになっています。
よほどお気に入りな様子です。
「メルちゃん、あんまり触ると折れちゃうよ~」
「んー」
「お姉ちゃんにくれるかな?」
しばらく葉っぱを見つめたあと、お姉ちゃんに手渡しました。
「くれる?」
「うん!!」
「宝物にするね、ありがとうね」
これまでにも、メルちゃんが見つけたものを宝物として何個か大切に保管しています。
「どこだっけな…あった」
引き出しから小さな缶を取り出しました。
お菓子の詰め合わせが入っていた、キラキラしておしゃれな缶です。
ちょっとへこんでいるのは、メルちゃんがこの前叩いて遊んでいたからです。
「メルちゃん、ちょっと見る?」
「みる!!」
箱に入っているのは、へんてこなものばかりです。
ペットボトルのキャップとか、かたつむりの殻とか…
大人からしたらなんとも思わないものばかりです。
でも、メルちゃんはそれら全て目を輝かせて持ってきてくれたのです。
ちっちゃなメルちゃんにとって、見るもの聞くもの全てが新しいのです。
「はい、メルちゃんに貰った葉っぱ…ちゃんと入れたからね」
「ばいばい」
お姉ちゃんは缶を机にしまいました。
ふと、メルちゃんがあくびをしました。
「メルちゃん眠い?」
「ごはん…」
「ご飯…あれ、もうこんな時間だ」
「準備するから待っててね~」
夕食はカレーでした。
もちろん甘口です。
夕食を終えて、お風呂に入ってメルちゃんと遊んでいると…
「…ん、メルちゃんどうしたの?」
「かく」
「かく…お絵かきする?」
「する!!」
早速お姉ちゃんは画用紙とくれよんを持ってきました。
メルちゃんは今か今かとスタンバイしています。
「じゃ、お絵かき開始~」
「かいし~」
手に取ったのは赤いクレヨンでした。
日中見つけた赤い葉っぱを描くのでしょうか。
「…暇だし、私も何か描こうかな」
なんとなーく水色のクレヨンを手に取りました。
何かを描いています。
「…」
一方のメルちゃんはというと…
「できた!!」
「お、お姉ちゃんに見せてくれるかな?」
メルちゃんが描いていたのは…赤いぐちゃぐちゃな何かです。
大人からすると意味不明です。
しかし、メルちゃんは満面の笑みをしています。
「メルちゃん、上手に描けたね」
「えへへ~」
メルちゃんはきっと葉っぱを描いていたのでしょう。
頭をなでてあげました。
すると、メルちゃんがあくびをしました。
「あれ、メルちゃん眠いのかな?」
「んー…」
「今日はお出かけして疲れたのかな」
「ねんねしよっか」
「ねる…」
寝る前にふと、自分の描いた画用紙に目が行きました。
お姉ちゃんが描いていたのは青空です。
その中央に、一筋のひこうき雲が描かれています。
「あーあ」
「流れ星だったらな、願い事なんて決まってるのにな」
「…これ、昼間も言ったっけ」
「ふふ…ま、いっか」
電気を消してベッドに入りました。
「また明日、いっぱい遊ぼうね」
おしまい
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