はじめにお読み下さい。
「はーい、じゃあみんなの描いた絵を見せて下さい」
メルちゃんのクラスでは今日は1日、ずーっと図工の時間です。
テーマは「春」。
最後の1時間は描いた作品の発表会です。
メルちゃんはどんな絵を描いたのでしょうか。
「じゃあ…◯◯くんから、いいかな?」
「えっと、タイトルは『公園』です」
「お兄ちゃんと一緒にキャッチボールをしたいです」
「はい、よく出来ました…拍手!」
「…次は△△ちゃん、何を描いたのかな?」
「はい!!私は…」
みんなが思い思いの絵を描いて、自慢げに発表しています。
絵の上手い下手は関係なく、みんなが楽しんで描いたのが伝わってきます。
そしてメルちゃんの番がやって来ました。
「次はメルちゃんだね」
「はい!!」
「お、元気がいいですね~」
「じゃあ…何を描いたのか教えてくれるかな?」
「メルは『桜』を描きました!!」
自慢げに見せたのは満開の桜の木が描かれた絵です。
実は去年、こんなことがありました。
『メルちゃん、明日のお花見だけど…』
『どうしたの?』
『大雨みたい…』
『え』
天気が回復した数日後に行ってみると、桜がすべて散ってしまっていたのです。
どれほどメルちゃんが楽しみにしていたことでしょうか。
地面に散った桜を見て、メルちゃんはとても落ち込んでしまいました。
『メルちゃん、今年は残念だったね…』
『…メルね』
『お姉ちゃんとお花見したかった』
『来年は絶対お花見しようね』
『…やくそくだよ?』
『きっと大丈夫だよ』
「わ、メルちゃん上手に描けてるね」
「去年お花見出来なかったから、今年は出来ますようにって思いながら描きました!!」
「はい、よく出来ました~」
みんなが拍手する中、メルちゃんは嬉しそうに席に戻りました。
そして放課後になりました。
「メルちゃん、去年お花見出来なかったの?」
「うん…雨で散っちゃったんだって」
「今年は見れるといいね」
「…」
去年のことが脳をよぎりました。
思い出すだけで悲しくなります。
「き、きっと大丈夫だよ」
「…そうだよね」
「あ、ごめん…メルちゃんまたね!!」
お友達は塾があるのでメルちゃん一人で帰ることに。
メルちゃんは悲しげな顔をしたまま学校を出ました。
「今年は見れるよね」
「お姉ちゃんと約束したもん」
「…でも、雨が降ったら桜がちっちゃう」
「そうだ」
何かを思いついたメルちゃんは走りだしました。
「ただいま!!」
「…あれ、お姉ちゃんまだ帰ってないの」
「まあいいや」
メルちゃんはお部屋に入ると着替えもせずに何かを始めました。
「…できた!!」
「これで大丈夫だよね」
「…あ」
玄関のほうからドアの開く音がしました。
「ただいま…お、メルちゃん帰ってるね」
「…居ないけど」
「お部屋かな」
メルちゃんが部屋から出てきました。
「お姉ちゃんおかえり!!」
「ただいま…あれ、着替えもせずどうしたの?」
「見て見て!!」
手に持っていたのはてるてる坊主です。
この前リリと一緒に遊んだ時に、作り方を教えてもらったのです。
「お、てるてる坊主じゃん」
「メルね、今度のお花見の日に晴れてほしいなって思いながら作ったんだよ」
「お花見…」
一瞬、お姉ちゃんが渋い顔をしました。
というのも、ここ数日天気が芳しく無いのです。
曇ったり小雨だったり、このままじゃ楽しくお花見出来る天気にはなりそうもありません。
それに、今年は寒さが続いたので桜が咲くのが遅いのです。
「ねえねえ、上手に出来てるでしょ?」
「…うん、そうだね」
さらに、去年のメルちゃんのことを思い出してしまいました。
数日間ずーっとしょんぼりしていたことを。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「あ、いや…何でもないよ」
「お着替えしたら、ちょっと来てくれるかな」
「わかった!!」
メルちゃんがお部屋に戻りました。
お姉ちゃんはスマホを取り出して調べ物を初めました。
「(…なんだこりゃ、微妙な天気だなオイ)」
「(あ、でも開花予想は一応満開になってるけど)」
「(え~、どうしよう…天気次第だなこれは)」
しばらくして、メルちゃんが来ました。
「なあに?」
「…あのね」
お姉ちゃんはメルちゃんにスマホを見せました。
「天気が良くないみたい」
「え」
「こればっかりはね、しょうがないの…」
メルちゃんの表情が曇りました。
よく見ると手には先程見せてくれたてるてる坊主を持っています。
「でもね…これ見て」
「この日はちょうど、桜が満開になる日なの」
「…」
「お天気次第…かな」
メルちゃんが黙ってしまいました。
てるてる坊主をぎゅっと握りしめています。
「メルちゃん?」
「…今年もお花見できないの?」
「ううん、お天気次第だよ」
メルちゃんは今にも泣きそうな顔をしています。
お姉ちゃんはメルちゃんの頭をなでました。
「だからね、そのてるてる坊主さんにお祈りしててほしいの」
「晴れますようにって…ね」
「メルちゃんが頑張って作ったんだから、きっと大丈夫」
「…うん」
すると、メルちゃんがてるてる坊主を見つめて言いました。
「…お姉ちゃんも作ってくれる?」
「ん、てるてる坊主?」
「うん」
「もちろん!」
メルちゃんがちょっとだけ笑ってくれました。
それを見てお姉ちゃんは安心しました。
「それじゃ、ご飯食べたら作ってみようかな?」
「ねえ、メルもう一個作ってもいい?」
「あ、じゃあ一緒に作ろっか」
「うん!!」
そして、お花見をする前日になりました。
お姉ちゃんはしきりにスマホを見ています。
険しい表情をしながら。
「(え~、天気悪くね?)」
「(降水確率80%って…嘘でしょ?)」
「(ちょっと困るって)」
5分おきに天気予報のアプリを更新しますが、予報は変わらずです。
すると、メルちゃんがお風呂から上がってきました。
ふわふわの毛並みからとってもいい匂いがしています。
「ねえねえ、明日お花見出来るかな?」
メルちゃんが目を輝かせながら話しかけてきました。
作ったてるてる坊主を手に持って。
お姉ちゃんはドキッとしました。
「そ…うだね」
「メルね、すっごく楽しみなの!!」
「…メルちゃん」
「なあに?」
お姉ちゃんはメルちゃんにスマホを見せました。
「明日ね、雨になりそうなの」
「…でね、もしかしたらお花見出来ないかも」
メルちゃんは持っていたてるてる坊主を落としました。
「…今年も?」
「メルちゃん、これはしょうがないの」
「天気はね…お姉ちゃんじゃどうしようもないの」
「やだ!!」
メルちゃんが叫びました。
「お花見するの!!」
「去年やくそくしたでしょ!!」
「だからねメルちゃん、お天気次第なの!!」
メルちゃんは駄々をこねています。
お姉ちゃんはそんなメルちゃんを見てカッとなってしまいました。
「もう!!」
「メルちゃんってさ、いつまで経っても子供だよね?」
「お天気なんてどうしようもないの!!」
「少しは大人になったらどう!?」
メルちゃんは泣き出してしまいました。
お姉ちゃんはそれを見てイラッとしたのか、さらに続けます。
「てるてる坊主なんてね、作っても意味無いの!!」
「メルちゃんさ、ほんっと子供だよね?」
「テストの点は悪いし私の日記に落書きするし」
「もうメルちゃんなんて知らないから!!」
「わーん!!」
メルちゃんは持っていたてるてる坊主をお姉ちゃんに投げつけました。
「あ!!何するの!!」
「お姉ちゃんきらい!!」
「嫌い?」
「ふーん、じゃあもうお世話してあげないからね」
「ご飯も作らないしお洗濯もしないから」
「少しは大人になったらどう!?」
「お姉ちゃんだいきらい!!!!」
メルちゃんは泣きながらお部屋に入っていきました。
お姉ちゃんの顔がひきつっています。
「ふん、花見なんて生きてりゃいつでも出来るわ」
ふと、床に落ちたてるてる坊主に目が行きました。
メルちゃんがお姉ちゃんと一緒に作ったものです。
残りの2つはすでにカーテンレールに掛けてあります。
「…」
よく見ると、てるてる坊主はぎこちない顔をしています。
形もいびつで、いかにもメルちゃんが作ったもの…といった感じがします。
それを見てお姉ちゃんは号泣してしまいました。
「ごめんねメルちゃん、さっきは言い過ぎたね」
「お姉ちゃん怖かったよね、ごめんね」
「明日謝らないと…ぐすっ」
てるてる坊主をカーテンレールに掛けました。
3つ仲良く並んでいます。
「神様、お願いします」
「メルちゃんが泣くの見たくないんです」
「…明日、晴れますように」
一方のメルちゃんは…
「お姉ちゃんのばか」
「お花見するってやくそくしたのに…ぐすっ」
ふと、この言葉が脳裏をよぎりました。
『メルちゃんさ、ほんっと子供だよね?』
「メル子供じゃないもん」
「…」
「お天気はどうしようもないって知ってるもん」
「もうお世話してもらえないのかな」
「メルお料理できない…お腹がすいてしんじゃうのかな」
「明日あやまらないと…」
「でもお姉ちゃんきっと怒ってるよね、どうしようどうしよう」
「…」
目に涙を浮かべたまま、気づいたら眠りに就きました。
翌日。
目覚ましの音で、お姉ちゃんが目を覚ましました。
真っ先にカーテンを開けると、なんと快晴でした。
天気予報は大外れ。
てるてる坊主のお陰でしょうか。
「え、晴れてる」
「…やった」
「メルちゃん起こさなきゃ…!!」
お姉ちゃんはすぐさまメルちゃんのお部屋に行きました。
相変わらず寝相が悪いようで、布団がベッドから落ちかけています。
「もう、メルちゃん風邪引くよ?」
「…じゃなくて」
「メルちゃん、起きて起きて」
メルちゃんを揺すると、しばらくして起きてきました。
「…んぅ」
「おはようメルちゃん」
「…あ!!」
お姉ちゃんを見てメルちゃんは驚きました。
昨日大ゲンカしたので怒りに来たのでは…そう思ったのです。
「やだ!!おこらないで!!」
メルちゃんは怖くなって布団にくるまってしまいました。
「違うよ、メルちゃん今日晴れてるよ」
「…え」
メルちゃんは一旦落ち着いてカーテンを開けました。
そこにはなんと、雲一つ無い空が広がっています。
「…晴れてる」
「メルちゃん、昨日はごめんね」
「お姉ちゃん怖かったよね…」
メルちゃんは突然お姉ちゃんに抱きつきました。
「わ!!」
「お姉ちゃんだいすき!!」
「ねえねえ、お花見できる?お弁当作ってくれる?」
「う…うん、もちろんだよ」
「やった!!」
子供は単純だな、そう思ったのは内緒です。
「きっとてるてる坊主さんのお陰だよ」
「うん!!」
「じゃ、お弁当作ろうかな?」
「ねえねえ、メルも一緒に作りたい」
「何がいい?」
「えっとね…」
二人はすっかり仲直りしたようです。
お弁当を作って支度をして、さあ出発です。
桜の木があるのは、家から歩いて15分ほどの場所にある公園です。
意外と穴場なのか、毎年それほど人が居ないのです。
「お姉ちゃんカメラもってきた?」
「もちろん、メルちゃんの写真撮ってあげるからね」
「おにぎりおいしいかな?」
「もちろ…くすっ、何それ」
お話しながら歩くと15分なんてあっという間です。
公園に到着しました。
相変わらず人影はまばらと言った様子です。
メルちゃんは嬉しさのあまりジャンプしました。
「すごいすごい!!」
「綺麗だね、いっぱい咲いてるね」
「てるてる坊主さんありがとう!!」
誰も居ない桜の木の下にシートを敷くと、メルちゃんが寝っ転がりました。
「あれ、メルちゃんどうしたの?」
「メルね、すっごくうれしい!!」
「嬉しいメルちゃんを見てお姉ちゃんも嬉しいよ」
二人はシートに座って桜を見ています。
どの桜も自信満々と言った様子で咲き誇っています。
「ねえねえ、桜ってきれいだね」
「今さらどうしたの?」
「メルね、学校で桜の絵を描いた時に思ったの」
「一番好きなお花かも…って」
お姉ちゃんは苦笑いしました。
去年は確か『チューリップが一番好き!!』と言っていたのです。
「そうだね、桜は綺麗だよね」
「今だけのお花だから…いっぱい見ておいてね」
「うん!!」
しばらく見ていたのですが、桜に飽きたのかメルちゃんは遊具の方に走っていきました。
お姉ちゃんは笑っています。
「ま、メルちゃんらしいわな」
「さーて、こうだろうと思って小説を持ってきてるから」
「読みますかぁ」
お姉ちゃんは寝転がって小説を読み始めました。
しばらくして、遊ぶのに飽きたメルちゃんが戻ってきました。
「…ねえねえ」
「…」
「お姉ちゃん!!」
「わ!!」
読書に夢中になっていたお姉ちゃんは驚きました。
「なんの本読んでるの?」
「メルちゃんには難しい本だよ」
「ふーん」
「で、どうしたの」
「メルおなかすいた」
「…あ、もうこんな時間」
「お弁当食べよっか」
「食べる!!」
お姉ちゃんは朝作ったお弁当を広げました。
メルちゃんの好きなものばかりです。
「いただきます!!」
「はい、どうぞ~」
「もぐもぐ…」
とても美味しそうに食べるメルちゃんを見て、お姉ちゃんは幸せな気持ちになりました。
ずっとこんな日が続けばいいな、そう思いました。
「…」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「あ、いや…美味しい?」
「うん!!」
「あはは、良かったね」
お弁当を食べ終えると、どうやらメルちゃんは眠くなったようです。
「メルね…眠くなってきた」
「寝てもいいよ?」
「…すぅすぅ」
メルちゃんが寝てしまいました。
こうなるだろうと思って、持ってきていたタオルケットを掛けてあげました。
メルちゃんはすごく幸せそうな顔をしています。
「あーあ、子供はいいな」
「子供ってだけで可愛がられるし」
「…メルちゃん可愛いよなぁ」
「そうだ」
持ってきていたカメラをまだ使っていないのを思い出しました。
カメラを取り出してすぐ、メルちゃんの寝顔を撮りました。
「…うふふ、あとで見せてやろっと」
「あーあ、私は眠くないし…何しようかな」
「まさかメルちゃんだけここに置いておく訳には行かないし…」
「んー」
ふとスマホを見ると、リリからメッセージが来ていました。
『ね、今何してるの?』
『メルちゃんとお花見』
『え~、どうして私も誘ってくれないの』
『…忘れてた』
『もう!!』
『で、メルちゃんは何してるの?』
『寝てる』
『あ、写真撮って!!』
お姉ちゃんはメルちゃんの寝顔をスマホで撮影して送信しました。
『わぁ、可愛い~~~~』
『今度遊びに行かせてよ』
『いいよ、待ってるから』
30分ほどして、メルちゃんが起きてきました。
眠たい目をこすっています。
「あれ、メル寝てたの…」
「おはようメルちゃん」
「…どうする?そろそろ帰ろっか」
「うん」
お姉ちゃんがシートを畳んでいる最中に、ふとメルちゃんが地面に落ちた桜を見つめているのに気づきました。
どこか悲しげな顔をしています。
「メルちゃん、どうしたの」
「…ねえねえ、桜って今日しか見れないの?」
「んー、どうかなぁ」
「こんなに綺麗なのに、今日しか見れないの悲しい…」
今日は日曜日。
明日からはごく普通に学校が始まります。
「…来週また来てみる?」
「もしかしたら…ちょっと残ってるかも?」
「…うん」
二人はお家に帰りました。
来週の天気予報は晴れ。
天気は問題なさそうです。
「てるてる坊主さんありがとう!!」
「ほんっと、その通りだよ」
てるてる坊主はしばらく飾っておくことにしました。
その夜、お姉ちゃんは今日撮った写真を見返していました。
「我ながら良いのがいっぱい撮れてるな」
「写真上手だな~ぬふふ」
「…あ、これ」
メルちゃんが滑り台の上でピースしてる写真が目に留まりました。
すごく楽しそうな顔をしています。
「くすっ、こんなのいつでも撮れるじゃん」
「…メルちゃんと一緒にいると幸せだな」
「さーて、来週どうなるかなっと」
翌週。
予報通りの晴れで、二人は先週と同じ公園に行ってみました。
すると…
「…ぁ」
桜は全て散っていました。
メルちゃんは呆然として立ち尽くしています。
「メルちゃん残念だったね」
「…メルちゃん?」
地面に散った大量の桜を見て、メルちゃんはショックを受けたようです。
この前まで綺麗に咲いていたのに。
また見れることをとっても楽しみにしていたのに。
メルちゃんが泣くのを必死に我慢しているのが分かります。
泣いたらお姉ちゃんに怒られそう、そう思ったのでしょうか。
するとお姉ちゃんはメルちゃんに言いました。
「メルちゃん」
「花ってさ、何で綺麗か知ってる?」
「…」
「それはね、散るからだよ」
「限りある儚い命だからこそ、ね」
「…よくわからない」
「あはは、難しいこと言ってごめんね」
「…でも、残念だったね」
「メルね、悲しくなんてないんだよ?」
「へぇ、メルちゃん大人になったね」
「かなしく…ないもん」
メルちゃんは後ろを向いて涙をぬぐいました。
「あ、やっぱり泣いてるし」
「ちがうもん!!」
お姉ちゃんはメルちゃんを優しく抱きしめました。
「また来年来ようね」
「…絶対だよ?」
「もちろん」
二人は指切りしました。
その夜。
メルちゃんが寝たあとにお姉ちゃんは部屋でぼーっとしていました。
「…メルちゃん悲しそうだったな」
「でもしょうがないよな」
「…?」
リリから何かメッセージが来ています。
『やっほー』
『あれ、どうしたの?』
『おーい』
返信する気になれないようです。
『何かあったの?』
『今日…』
今日のことをリリに教えました。
『なるほど、それは残念だったね』
『メルちゃんの悲しい顔なんて見たくないよ』
『またうちに来て元気付けてあげてよ』
『メルちゃんリリのこと大好きだからさ』
『もっちろん!!』
『じゃ、おやすみ』
「ふあぁ…寝るか」
「どーせ私よりリリのほうが好きなんだろうな」
「でも1日遊ばせると寂しそうな顔して帰って来るし」
「どうなんだか」
「…あ」
ふと、先週読んでいた小説のことを思い出しました。
もうすっかり内容を忘れてしまいました。
「んー、もういいかなこれは」
「今度売りにくか…」
なんとなくペラペラめくっていると、何かが机に落ちました。
よく見ると、挟まって押し花になった桜の花びらでした。
「お、すごい!!」
「メルちゃんに見せなきゃ」
「喜ぶかな、どうかな?」
翌朝、メルちゃんが朝ご飯を食べ終えたところで押し花を見せることにしました。
「ごちそうさま」
「はい、いっぱい食べて偉いね」
「…」
どうしても昨日のことが忘れられないようです。
お姉ちゃんはニヤニヤしています。
「来年も見れるよね?」
「メルちゃん」
「…?」
「じゃーん、これ…桜の押し花だよ」
メルちゃんの目が輝きました。
「わ、すごいすごい!!」
「どうしたの?メルに隠してたの?」
「これはね…お姉ちゃんが読んでた本に挟まってたの」
「で、押し花になってたってわけ」
「わぁ…」
メルちゃんは押し花をそっと手に取りました。
ちょっとくすんでいますが、それでも綺麗な桜色をしています。
雑に扱うとすぐ砕けてしまいそうです。
「メルこれ欲しい…」
「だめ?」
「今度のテストで良い点が取れたらね」
「え!!」
「なーんて」
「いいよ…あ、ちょっと待って」
お姉ちゃんが部屋から何かを持ってきました。
「これ…クリアファイルに挟んどくといいかも」
「ありがとう!!」
メルちゃんはご機嫌といった様子です。
嬉しそうに押し花をじーっと見つめています。
それを見てお姉ちゃんは安心しました。
「じゃあ…また来年、だね」
「うん!!」
仲良く並んだてるてる坊主がふと、微笑んだ気がしました。
おしまい
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