【小説】ララちゃんの子守唄

はじめにお読み下さい。


・登場人物はメルちゃん、メルちゃんの母、キキくん、ララちゃん
・メルちゃんの年齢は幼児ぐらい(人間換算でやっと歩けるようになった程度)
・メルちゃんに母が存在していて普通に「まま」とか呼ぶ


「じゃあ、メルちゃんをよろしくお願いします」
「うふふ、任せて下さいね~」
「ままどこいくの?」

メルちゃんのお母さんはどうしても一人で行かなければならない用事ができてしまったようです。
そこで、いつも仲良くしてくれているキキくんララちゃんに子守をお願いしました。

「メルちゃん大丈夫だよ、お母さん夜には戻ってくるからね」
「メルもいく!」
「ごめんねメルちゃん、ママどうしても一人で行かないといけないの」
「メルもいくの!!」

メルちゃんは駄々をこねています。
急いでいたお母さんはメルちゃんを優しくなでてから出かけていきました。
メルちゃんはお母さんが見えなくなるまで手を振りました。

「…で、どうする?ララ」
「どうって、メルちゃんの子守をするのよ」
「子守って何すれば良いんだろう?」
「だっこして!」
「だ、だっこ?」
「はいはい、おいで~」

ララが抱っこしてあげるとメルちゃんは笑ってくれました。
それを見て二人は少しだけ安心しました。

「とりあえず、家に入りましょ」
「そうだね」

部屋の中は雲で出来た家具でいっぱいです。
パステルで彩られた室内はまるで幼稚園のようです。
メルちゃんははしゃいでいます。

「ふわふわ~!」
「あはは、メルちゃん嬉しそうだね」
「転んでも安心ね」
「さーて、何しようかな?」
「子供をあやすおもちゃなんてあったかしら」
「…あれは?」
「?」

キキが何かを持ってきました。
どうやら雲製造機のようです。
ハンドルが付いていて、回すと色々な形の雲が出てきます。

「メルちゃん、これ回してみてくれる?」
「まわすの?」
「そうね、ゆっくり優しく回してね」

メルちゃんがハンドルを回すと、はじめはお月様のようなまんまるの雲が出てきました。

「おつきさまだ!!」

その次は、魚のような形をした雲です。
りんごのような雲、ハート型の雲、色々な雲がもくもくと出てきます。
メルちゃんは大はしゃぎです。

「…あ、メルちゃんみたいな雲だ!」
「ほんとね、まるでメルちゃんみたい」

メルちゃんはそれを見て、思わず手を伸ばしました。
すると、雲は消えてしまいました。

「あ、きえた…」
「雲だからね、触ったら消えちゃうの」
「あはは、メルちゃんもしかして持って帰りたかった?」
「うん」

メルちゃんは満足したのか、雲製造機を手放しました。
次に興味を示したのは本棚です。
何か読んで欲しいのでしょうか。

「ん?メルちゃんどうしたの」
「ほんよんで!」
「子供向けの本なんてあったかしら」
「えーっと…これはどうかな」

キキが取り出したのは『今日の献立100レシピ』と題した本です。

「もう、それってお料理の本じゃない」
「キキったら食いしん坊ね」
「えへへ、お腹がすいたかも」
「…あ」

メルちゃんは本を読み始めました。
といっても、まだ字が読めないのでお料理の写真だけ見ています。

「これ!!」

メルちゃんが指さしたのは…

「オムライスね」
「あ、ぼくも食べたいな」
「じゃあ…お昼はオムライスにしようかしら?」
「やった!!」

メルちゃんは喜んでいます。
さっそくお料理が始まりました。
ララがエプロンを掛けると、キキは材料を持ってきました。
ところが、チキンライスに使うたまねぎが足りません。

「あ、たまねぎが無いや」
「外に置いてあったかも?」
「持ってくるね」
「メルもいく!!」
「じゃ、一緒に行こっか」

キキはメルちゃんの手を引いて外に出ました。

「えーっと…あった!」

箱に入ったたまねぎを見ると、メルちゃんがすかさず手を伸ばしました。

「あ、メルちゃん持っていく?」
「もっていく!」
「一個あればいいよね、はい…落とさないでね」

メルちゃんが大切そうにたまねぎを持って帰ると、ララがほほえみました。

「わぁ、メルちゃんありがとう!!」

ララはメルちゃんの頭をなでてあげてから、たまねぎを受け取りました。

「えへへ~」
「メルちゃんお利口さんだね!」

フライパンに触れてやけどしたら危ないので、キキはメルちゃんと遊んであげています。
しばらくして、いい匂いがしてきました。

「お、メルちゃんそろそろ出来そうだね」
「おむらいす!!」
「ちょっと見に行こっか」

メルちゃんを抱っこして台所に向かうと、ちょうどララが卵を乗せるところでした。

「うふふ、もうすぐ出来るからね」

チキンライスに卵を乗せると、メルちゃんが目を輝かせました。

「おむらいすだ!!」
「はい、完成~!」
「ララありがとう!」

二人はオムライスの乗ったお皿を持っていくと、メルちゃんが何かを指さしています。

「どうしたのメルちゃん?」
「あれ!」
「…あ、ケチャップかしら」
「お絵かきしたいのかな?」

メルちゃんにケチャップを渡すと、さっそく絵を描き始めました。
完成したのは何でしょうか。

「できた!」

しかし、二人にはさっぱり分かりません。
ひそひそ声で会話しています。

「これは…何だろう」
「うーん、分からないわ…」

メルちゃんが不思議そうな顔をしています。

「メルのかおだよ?」

ぐちゃぐちゃに描かれたそれはどう見てもメルちゃんには見えません。
しかし、メルちゃんはとっても嬉しそうです。
子供の描いた絵ほど、人を幸せにさせるものはありません。

「あはは、メルちゃんだったんだね」
「あとでお絵かきしましょ」
「いいね!」
「もぐもぐ…」

気がついたらメルちゃんはもう食べ始めていました。

「わ、メルちゃんお腹すいてたの?」
「ぼくたちも食べよっか」

三人は仲良くオムライスを食べ始めました。

「ぼくね、ララの作るお料理大好きだよ」
「キキだってお料理出来るじゃない」
「ララのほうが上手だよ~」

この前キキがお砂糖と塩を間違えて大変なことになったのは内緒です。

「ごちそうさま!」

メルちゃんが初めに食べ終わりました。
口いっぱいにケチャップが付いています。

「あはは、メルちゃんケチャップだらけだよ」
「お口拭いてあげるね、はい…」

その後、三人はお散歩することにしました。
ララはメルちゃんの手を引いて、キキはリュックを背負っています。
雲の上をふわふわと歩いていると、なんだか幸せな気持ちになってきます。

「もくもく~」
「メルちゃん嬉しそうで良かったわ」
「…あ、ネコさんだ」

ベンチの上で、ネコさんが日向ぼっこしています。
メルちゃんは興奮気味に言いました。

「ねこだ!!」
「あ、メルちゃん待って!!」

一目散にネコさんのほうへ走って行きました。
すると…

「わ!」

メルちゃんはこけてしまいました。
しかしここは雲の上。
けがをすることはありません。

「あはは、メルちゃん元気だね」

メルちゃんがネコさんを優しくなでると、ごろごろと喉を鳴らしました。

「ねこ~」
「ネコさんはね、私達のお友達なのよ」
「だからね、優しくしてあげてね」

ネコさんは伸びをするとどこかに行ってしまいました。

「あ」
「ネコさん行っちゃったね」
「私達もそろそろ行きましょう」

しばらくして、目的地に到着しました。
キキくんララちゃんのお気に入りのお花畑です。
色とりどりのお花が咲き乱れていて、ここはまるで天国のようです。

「ちょっと休憩しましょ」
「あれ?メルちゃんは?」

メルちゃんはちょうちょを追いかけています。

「もう、メルちゃんったら」
「元気だなあ、ぼく歩いて疲れちゃった」

ララがメルちゃんを眺めてつぶやきました。

「…子供はいいわね、悩みなんてなさそうで」
「キキは悩みごと、ないの?」
「え?ぼくは…食べすぎちゃうことかな」
「今度からごはんの量…減らしちゃおうかしら」
「わ、やめてよ!」
「うふふ…冗談よ」
「ララは何か悩みごとがあるの?」
「…そうねえ、最近お洗濯がなかなか乾かないことかしら」
「ララらしいね、それ」

メルちゃんが戻ってきました。
何かを持っています。

「どうぞ!」
「わ、ありがとうメルちゃん!」

どうやらメルちゃんは一輪のお花を摘んできたようです。
鮮やかな紫色のコスモスです。

「あとでお家に飾ろうね」
「うふふ、そうね」
「のどがかわいた」
「あ、ちょっと待ってね」

キキがリュックからストロー付きの水筒を取り出しました。
手渡すとすぐ、メルちゃんはごくごく飲みはじめました。

「それ、何が入ってるの?」
「りんごジュースだよ」
「おいしい!」
「えへへ、良かったね」
「ララもこれどうぞ」
「ありがとう」

二人は大人っぽく紅茶を飲みました。
メルちゃんがキキを見つめています。

「…ん、どうしたの?」
「飲みたいんじゃないかしら」
「のむ!」
「んー、紅茶だよ?」

メルちゃんが一口舐めると、とたんに苦い顔をしました。
それを見て二人は笑ってしまいました。

「あはは、メルちゃん紅茶まだ飲めないんだ」
「そりゃそうよ、子供には渋いわ」
「メルかえる!」
「そろそろ帰ろうか?」
「そうね」

陽が傾きかけています。
太陽に背を向けて歩くと、メルちゃんの影が長く伸びました。

「わぁ!」
「メルちゃん大人になった気分だね」
「うふふ、メルちゃん可愛いわね…」
「ララは大人になりたい?」
「え?そうね…少しだけ」
「ぼくはやだなぁ」
「そんなこと言ってたらお母様に叱られちゃうわ」
「あはは、内緒にしてね」

お家に到着しました。

「そろそろメルちゃんのお母さん帰ってくる時間なんだけど」
「遅いわね」
「ままどこ?」
「もう少し待ってね、メルちゃんいい子だからね」

しかし、いつまで経ってもお母さんは帰ってくる気配がありません。
メルちゃんはぐずりはじめました。

「ままは?」
「困ったわね、どうしようかしら」
「ララ、あれしてよ」
「あれって?」
「ほら、昔聞かせてくれたやつ」
「…子守唄のことかしら」
「そうそう!」
「メルおうちかえる…」

メルちゃんは今にも泣き出しそうです。
ララはメルちゃんを優しく抱っこしました。
そして…

「メルちゃん、いい子いい子」
「おうちかえる…」

ララは子守唄を歌い始めました。
キキは目を閉じて聞いています。
一方のメルちゃんは…

「あれ?」

子守唄を聞いてすぐ眠ってしまったようです。
ララだけの魔法です。

「もう寝ちゃったのね」
「メルちゃんの寝顔可愛いね」
「そうね…うふふ」

すると、ドアをノックする音が聞こえました。

「こんばんは!」
「あ、待って下さい!」

ドアを開けると、メルちゃんのお母さんが立っていました。
急いで来たのか、少しだけ息を切らしています。

「遅くなってごめんなさい…メルちゃん大丈夫だった?」
「メルちゃんね…疲れて寝ちゃいました」

すやすやと寝息を立てて寝ているのを見て、三人は声のトーンを下げました。
メルちゃんのお母さんは、そっとメルちゃんを抱きました。

「今日はありがとうございました」
「いいえ、また来て下さいね」
「待ってるね!」

二人が帰ると、キキとララも家に入りました。

「メルちゃんどんな夢見てるんだろうね」
「楽しい夢だったらいいわね」
「また来て欲しいな」
「うふふ…きっとまた、来てくれるわ」

メルちゃんが摘んでくれたコスモスを花瓶から手に取り、優しくささやきました。

「また会おうね」
「絶対だよ」
「…で、ぼくお腹すいたんだけど」
「今日のご飯は何にしようかしら?」
「あ、ぼくが作ってもいい?」
「え、いいけど…今度はお砂糖と塩間違えないでね」
「うっ、あれは勘違いだってば!!」
「一緒に作りましょう、ね?」
「…うん!」

コスモスが優しくほほえんだ気がしました。

おしまい

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