【小説】キティちゃんのアップルパイ

「うふふ、楽しみだなあ」
「メルちゃん早く来ないかな?」

キティちゃんは時計をしきりに気にしています。
今日はメルちゃんと一緒にお料理する約束をしているのです。
メルちゃんが来るまであと10分ほど。
キティちゃんは楽しみで仕方ないといった様子です。

「何作ろうかなあ」
「メルちゃんは確か、オムライスが大好きだったね」
「でも、キティはハンバーグが食べたいかも」
「うーん…」

あれこれ考えているうちに約束の時間になりました。
でも、メルちゃんは一向にやってきません。

「…メルちゃん来ないなあ」
「どうしたのかな」
「…もしかしてキティとの約束忘れてたりして!!」

待てど暮らせどメルちゃんが来る気配がありません。
キティちゃんはだんだん不安になってきました。

「どうしたのかな、具合が悪くなったのかな」
「それとも…」

しばらくして、ドアのチャイムが鳴りました。
キティちゃんが急いで向かうと、そこにはメルちゃんの姿が。

「あ!メルちゃん!」
「はぁはぁ、おまたせ…」
「…どうしたの、すごい汗だよ?」

今日は涼しいのにメルちゃんは汗だくです。
キティちゃんは不思議そうな顔をしています。

「…ねぼうした」

キティちゃんは笑ってしまいました。
メルちゃんはちょっと恥ずかしそうです。

「もう、キティ心配したんだよ?」
「ごめんね、遅れて」
「大丈夫だよ~」
「…あ、メルちゃんそのリボン」

メルちゃんが付けていたのは真っ赤なリボンでした。
キティちゃんとお揃いのように見えます。

「えへへ、キティちゃんとお揃いの色だよ」
「嬉しいな~」
「…でも、ちょっとズレてるけど」
「え」

キティちゃんはメルちゃんのリボンを直してあげました。
メルちゃんは嬉しそうです。

「…で、メルちゃん」
「なあに?」
「今日、何作る?」
「…キティちゃんの食べたいものでいいよ?」
「え~、メルちゃんは何食べたいの?」
「メルはね…甘いものがいい!!」
「…あ、じゃあね」

キティちゃんはとっても嬉しそうに言いました。

「アップルパイはどう?」
「アップルパイって作れるの?」
「え?」
「メルお店で売ってるのしか食べたことないの」
「難しそう…」
「大丈夫だよ、キティ何回も作ったことあるし」
「キティちゃんと一緒なら大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、じゃあ…お買い物に行こっか」
「うん!!」

二人は近くのお店に買い出しに出かけました。
昨日は雨が降っていたのですが、今日はいいお天気です。
キティちゃんがふと空を見上げるとうろこ雲が出来ていました。

「あ、メルちゃん見て!!」
「なあに?」
「うろこ雲だよ」
「ほんとだ、珍しいね」
「…あ、キティちゃんこれ見て!!」
「どうしたの?」
「たんぽぽ!!」
「わぁ、すごい!」
「キティね、今年たんぽぽ見たのはじめてかも」

歩いているだけで楽しそうな二人です。
そうこうしているうちにお店に到着しました。

「えーっと、アップルパイの材料は…」
「あ、真っ赤なりんご!!」
「うふふ、メルちゃん嬉しそうだね」
「キティちゃんとお料理するのが楽しみなんだもん」
「上手に作れるといいね」
「うん!!」

バターやパイシートなど必要なものをかごに入れていきます。
お買い物を終えて、キティちゃんのおうちに向かう最中にメルちゃんがぼそっと言いました。

「…ねえ」
「どうしたの?」
「キティちゃんって、好きな男の子はいるの?」
「え~、内緒だよ」
「メルちゃんは?」
「めっ、メルは…えっと…」
「なーんて、言わなくてもいいよ~」

意地悪そうにキティちゃんが答えました。
メルちゃんの顔が赤くなっている…ように見えます。

「…メルね、好きな男の子がいるの」
「そうなんだ」
「…でもね、お話する勇気が出ないの」
「メルちゃんって、お手紙が大好きだったよね」
「え、そうだけど…」
「その子にお手紙を書いてみたらどう?」
「お手紙にね、今のメルちゃんの気持ちを書いてみるの」
「…」
「どうかな」
「…今度書いてみようかな」

「キティね、メルちゃんに貰ったお手紙ぜんぶ大事に取ってあるんだよ」
「そうなの?」
「メルちゃんの書いたお手紙を見てるとね、なんだか幸せな気持ちになるの」
「…」
「メルちゃんは作文が上手だから、きっと大丈夫だよ」
「キティちゃんありがとう」

二人はおうちに帰ってきました。
買ったものを机に並べてみます。

「アップルパイの材料って、こんなのだったんだ」
「えへへ、意外と少ないでしょ」
「上手に作れるかなあ…」
「キティね、ママと一緒に何回も作ったことあるから大丈夫!!」
「ママのアップルパイはとっても美味しいんだよ」
「キティちゃんのママってお料理上手だよね」
「えへへ、メルちゃんと作るアップルパイはどんな味になるか楽しみ!!」
「…うん!!」

お料理開始です。
まずはりんごを切っていきます。

「メルね…包丁使うの苦手なの」
「不器用なのかなあ」
「じゃあ、キティがやろうか?」
「ううん、練習したいからメルがやる」

なんとか切り終えましたが、りんごがどれもこれもいびつな形をしています。
メルちゃんはちょっとだけ悲しくなりました。

「メルやっぱりお料理向いてないのかな」
「そんなことないよ、お料理はやらないと上手くならないよ?」
「…そうだよね」
「キティも初めはへたっぴだったもん」
「メル頑張るね」
「えへへ、応援してるよ」

続いてりんごのコンポート作りです。
キティちゃんは鍋を取り出しました。
メルちゃんは材料の重さを測っています。

「ね、メルがやってもいい?」
「もちろん!!」

鍋にりんごや砂糖など、材料を次々と入れていきます。

「混ぜる時はね、こうして…」
「わ、メルちゃん上手!!」

メルちゃんは褒められて嬉しくなりました。
キティちゃんもとっても楽しそうです。

「…はい、あとは焼くだけだよ」
「楽しみだな~」
「焼けるまで何しよっか?」
「あ、メルね…キティちゃんに見せたいものがあるの」
「なになに?」

メルちゃんは持ってきたかばんから巾着を取り出しました。
キティちゃんはわくわくしています。
巾着を逆さにすると、いろんなものが出てきました。

「見て見て、この貝殻きれいでしょ」
「わ、すごいすごい!!」
「キティも海に行きたいな~」
「ねえねえ、今度メルと一緒に行こうよ」
「もちろん!!」
「えっとね、あとね、これはね…」

キラキラした石とか鳥の羽とか、いかにもメルちゃんが好きそうなものばかりです。
その中でもキティちゃんが不思議に思ったのは短くなった赤鉛筆でした。

「メルちゃん、なんで赤鉛筆が入ってるの?」
「これはね、メルの名前が入ってるんだよ」
「…あ、ほんとだ」

鉛筆の末端に金色の文字で「メル」と箔が押してあります。
もったいなくて捨てられないようです。

「メルちゃん、こんなにすり減るまで使ったんだよね」
「そうだよ」
「お勉強頑張ってるんだね、すごいな~」
「え、えっとね、これは…」
「キティも頑張るね!!」
「う、うん」

お絵かきにしか使ってないのは内緒です。

「あ、そろそろ焼ける頃かな」
「メルちゃん、ちょっと見てみよっか」
「わくわく…」

オーブンの中を見ると、とても美味しそうなアップルパイが出来ていました。
二人は思わずハイタッチしました。

「すごいすごい!!」
「キティね、すっごく嬉しい!!」
「メルも!!」

オーブンからそぉっと取り出すと、焼けたりんごの良い香りが漂ってきました。
メルちゃんがお店で買うものより何倍も美味しそうに見えます。

「じゃ、食べよっか」
「うん!!」

まずはメルちゃんが一口食べてみました。

「もぐもぐ…」
「メルちゃんどう?」
「おいしい!!」

これまで食べたどのアップルパイよりも美味しかったようです。
キティちゃんも一口食べました。

「ん~、美味しいね」
「メルちゃんと二人で作ったから、美味しさも2倍だね」
「えへへ、そうかな~」
「いっつもはミミィと作ることが多いから、メルちゃんと作れて楽しかったな」
「メルも楽しかった!!」

多めに作ったので、余ったアップルパイを何個かメルちゃんが持って帰ることになりました。
キティちゃんが包んでいる間にメルちゃんは洗い物をしました。

「メルちゃん、今日は来てくれてありがとうね」
「メルもね、キティちゃんに久しぶりに会えて嬉しかった!!」
「また来てね」
「うん!!」

キティちゃんは、メルちゃんが見えなくなるまで手を振りました。

「…あ、ミミィが帰ってきた」
「アップルパイ食べてもらわなくっちゃ」

その夜。
メルちゃんがアップルパイの入った包みを開けると、白い封筒が。

「あれ、何だろう?」

開けると、1通の便箋が入っていました。



メルちゃんへ
今日は来てくれてありがとう!!
一緒にお料理できてとっても楽しかったよ
今度は一緒に海に貝がらを拾いに行こうね
楽しみにしてるよ
キティより



「えへへ、キティちゃんからお手紙貰ったの久しぶりだな」

『たからものいれ』とマジックペンで書かれた箱を取り出しました。
メルちゃんは箱を開けて、お手紙を大切にしまいました。

「宝物が増えちゃった」
「キティちゃん、また遊ぼうね」

おしまい


続編を書きました。

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