【小説】メルちゃんのワンピース

はじめにお読みください。




「お姉ちゃんどこ行ったんだろう…」

「…あ!いた!!」

「メルね、これ買って欲しい!」

二人は本屋さんに来ていました。

メルちゃんが持ってきたのは子供向けの文庫本です。

「一冊だけでいい?」

「うん!!」

「お姉ちゃんは?」

「え、別に何も買わないかな」

「そうなんだ」

「ねえねえ、早く読みたい!」

「買ってくるから…じゃ、あそこで待っててね」

「うん!」

「…」

先日、こんなことがありました。

「ねえ、リリの趣味って何?」

「え、私?」

「もちろん、絵を描くことだよ~」

「授業で絵を描いて趣味でも絵を描いて…仕事でも絵を描こうとしてるのかい」

「だって好きなんだもん」

「いやね、最近何か新しい趣味が欲しいな~って思ってさぁ」

「え~、趣味って見つけるものじゃなくて見つかるものだと思うけどなあ」

「…名言みたいなことを」

「そうかなあ?」

「あ、あれ覚えてる?」

「あれって?」

「メルちゃんの入学グッズ作りでミシン使ったときのこと」

「…あ~思い出した」

「何故か上手に出来たって話か」

「うんうん、才能あると思うけどな~」

「…ミシンねぇ、家にあるっちゃあるんだけど」

「あれ以降特に作りたいものがなくて放置してあるんだよなぁ」

「あ、いいこと思いついた!」

「ん?」

「えっとね…」

『初心者でも安心!型紙つき子供服の作り方』

「…買うか」

お姉ちゃんは本を2冊買いました。

メルちゃんは言われた場所で行儀よく椅子に座っています。

「メルちゃんお待たせ」

「はやく帰ろうよ~」

「…ん、お姉ちゃんも本買ったの?」

「そうだよ、ちょっと雑誌をね」

「ふーん」

「…なに、その目は」

「メル知ってるんだよ?」

「お姉ちゃんね、『かれし』が欲しいって言ってるの」

「…だから何さ」

「その本は…『かれし』の作り方の本にちがいない!」

「その名も…名探偵メルちゃん!!」

「余計なお世話」

「やっぱり彼氏要らないから2冊返品してくるね」

「あ!やだ!!」

家に帰ると、メルちゃんは夢中で本を読み始めました。

お勉強はすぐ飽きちゃうのに、読書に関してはなかなかの集中力です。

「…あれぐらいお勉強して欲しいんだけどなあ」

「それよりも…っと」

お姉ちゃんは雑誌をペラペラめくってみました。

可愛らしい子供服が15点ほど、型紙つきで紹介されています。

その中でも目を惹いたのが、ワンピースの型紙です。

ノースリーブになっているので、夏でも涼しそうです。

「作るなら…これかな」

本を閉じて、メルちゃんの分からない場所に隠しました。

翌日、お姉ちゃんは一人で手芸店に向かいました。

「えーっと、生地はこれで」

「糸は…これかな」

「ボタンは…メルちゃんどれが良いのかなあ」

「…これでいいか」

家に帰ると早速、押入れからミシンを引っ張り出しました。

使うのは久しぶりです。

「…使い方忘れた」

「何か縫ってみるか」

使い古したタオルでぞうきんを縫うことにしました。

体が覚えているようで、自分でも意外なほど上手く完成しました。

「…意外と行けるじゃん」

「よーし、早速…」

「いや、でも…メルちゃんには秘密にしたいなあ」

「作ってみて下手くそだったら着せたくないし」

「今日はそろそろメルちゃん帰ってくるし…夜中にでもやってみるか」

ちょうど、メルちゃんが帰ってきました。

「ただいま!」

「あ、おかえり…」

「あれ、ミシンだ」

「どうしたの?何か作るの?」

「違いまーす」

「うそだ!お姉ちゃん何か作るんだ!」

「えっとね…た、たまに動かしとかないとね、調子が悪くなっちゃうから」

「ふーん、メルも使いたいなぁ」

「だ、だめだってば」

「危ないからまだだめでーす」

「んー、お姉ちゃんが言うなら…」

メルちゃんがお部屋に行くと、お姉ちゃんはミシンを自分の部屋に移動させました。

「…バレるとこだった」

その夜、メルちゃんのワンピース作りが開始しました。

さびて動きの悪い裁ちばさみで生地を裁断していきます。

「…喜んでくれるといいけどなぁ」

「さて、裁断終わりっと」

ミシンを掛けてアイロンをして…ボタンを付けたら完成です。

「ふぅ~、初めてにしては上出来じゃないかな?」

すそにふりふりのレースがついた、紺色ワンピースです。

ちょっと高いけど、ボタンは木製のものを買いました。

近くで見ると二度縫いしてあったり糸が飛び出ていますが、遠目で見れば分かりません。

「あの子派手な柄は嫌いだから…思い切って無地にしてみたけどさ」

「地味だから着たくない!とか言ったりして」

「…ま、明日になればわかるか」

「寝よ」

翌日、メルちゃんはお友達と遊ぶ約束をしていました。

朝ごはんを食べ終えるとお姉ちゃんが言いました。

「メルちゃん、今日は何するのかな」

「今日はね、お友達と公園で遊ぶの!」

「そっか、仲良くするんだよ?」

「うん!!」

「メル着替えてくるね」

「メルちゃん、ちょっといい?」

「え?」

お姉ちゃんがお洋服の入った袋を差し出しました。

メルちゃんを喜ばせたかったのか、わざわざラッピングまでしてあります。

「メルちゃんに…プレゼントだよ」

「え、メルもしかして今日お誕生日なの!?」

「いや…違うって」

「別に普通の日でもプレゼントしていいでしょ」

「ねえねえ、開けて良い!?」

「どうぞどうぞ」

わくわくしながら袋を開けると、中には紺色のワンピースが入っていました。

メルちゃんはワンピースを手にとったまま黙っています。

「(…あれ?)」

「(もしかして…気に入らなかった?)」

お姉ちゃんは心配になりました。

「あの、メルちゃん…それね…」

すると…

「お姉ちゃんだいすき!!」

「わ!!」

メルちゃんが抱きついてきました。

「メル新しいお洋服欲しかったの!!」

「嬉しいなあ~、着ても良い?」

「も、もちろんだよ」

お姉ちゃんはメルちゃんにワンピースを着せてあげました。

「メルちゃん、それね…私が作ったの」

「え」

「昨日の夜、こそっと…ね」

「お姉ちゃんすごい!!」

「メル大切にする!!」

メルちゃんはスキップしながら出ていきました。

お姉ちゃんは感無量です。

「メルちゃん喜んでくれて良かったな」

「…疲れたからもういいかな」

ミシンをしまってから、買い物に出かけました。

「メルちゃんおまたせ!!」

公園で待ち合わせていたお友達が、メルちゃんのワンピースに気づきました。

「あれ、メルちゃんそんなお洋服持ってたっけ?」

「えへへ~、これはね、お姉ちゃんに作ってもらったんだよ」

「え、作って貰ったの?」

「えへん!」

「すごいなぁ、私もそんな親が欲しかったなあ…」

「メルね、これお気に入りなんだよ!」

「大切にしなきゃだね」

「うん!!」

走るたび、風に吹かれるたびにレースが揺れてメルちゃんはまるで妖精さんみたいです。

それからというもの、お友達と遊ぶときはいつも紺色ワンピースを着てきました。

すっかりお気に入りです。

ある日のこと…

「…わっ!!」

メルちゃんが転んでしまいました。

「メルちゃん大丈夫!?」

「い、いたい…」

「わ、ケガしてる…お家に帰ったほうがいいよ!」

「わかった…」

メルちゃんが帰ってきました。

さっき出かけたばかりなので、お姉ちゃんは不思議に思いました。

「あれ?どうしたの…って」

「わ、大変!!」

「メルね、転んでケガした…」

「こっち来て!!」

消毒して絆創膏を貼ってあげました。

「メルちゃん泣かずに我慢してえらいね、痛かった?」

「…メルお姉さんだもん」

「そうだね、よしよし」

「…あ」



お姉ちゃんは、ワンピースが破れているのに気づきました。

「メルちゃん…ワンピースが破けちゃってる」

「あ…ほんとだ」

「お洋服破ってごめんなさい…」

メルちゃんが悲しそうにしていると、お姉ちゃんはメルちゃんの頭を撫でました。

「大丈夫だよ、直してあげるからね」

「直るの?」

「うん、お姉ちゃんに任せてね」

「じゃあ、直してほしい…」

「今度直しとくからね、大丈夫だからね」

「…うん」

「今日はもう遊べないから…本屋さんに行く?」

「え、また買ってくれるの?」

「今日はね、特別に二冊買ってあげようかな?」

「やった!!」

夜になりました。

「メルちゃんもう寝る時間だよ?」

「本読みたいからまだ寝ないもん」

「早く寝ないと…おばけが出るぞ~?」

「え、やだ…」

おばけの三文字でメルちゃんが素直に言うことを聞くのでお姉ちゃんは助かっています。

メルちゃんが寝ると、早速ワンピースを直し始めました。

「…なんだ、ここが破けてるだけか」

「これなら簡単…ん?」

ふと、ワンピースを眺めると着古してぼろぼろになっていることに気づきました。

ところどころ糸がほつれて、ボタンは取れかけています。

メルちゃんが大切に来ている証です。

「…メルちゃんこんなに大切にしてくれてるんだ」

「嬉しい」

「直してあげるからね、待っててね」

しばらくして、修繕が完了しました。

アイロンをして、ボタンは付け直して、ほつれも直したら新品同様です。

翌朝、メルちゃんにワンピースを渡しました。

「わあ、もう直ったの?」

「うふふ、お姉ちゃん手芸得意かも」

「すごいすごい、着ても良い?」

「着てみてくれる?」

メルちゃんが着替えると、嬉しそうにジャンプしました。

「メルね、このお洋服宝物なんだよ」

「宝物かあ、嬉しいなあ」

「あ、じゃあさ…」

「なあに?」

「一緒に布を選んで…新しいワンピース作る?」

「え…いいの!?」

「なんだかお姉ちゃん…手芸熱が出ちゃったかも」

「お、お熱が出たの!?大丈夫?」

「違うって、やる気がいっぱい出たってこと」

「じゃ…お出かけしよっか?」

「うん!!」

その夜、お姉ちゃんは二人で選んだ生地でワンピースを作りました。

朝顔がモチーフの夏らしいワンピースです。

余りの布でリボンも作ってあげました。

「メルちゃん、お洋服出来たからね」

「また着てくれると嬉しいな」

ワンピースをたたみ、お姉ちゃんはそーっとメルちゃんのお部屋に入りました。

メルちゃんはすやすや、夢の中です。

机の上には書きたての絵日記が置いてあります。



今日はおねえちゃんにワンピースを直してもらった。

大すきなワンピースなので、すごくうれしかった。

そのあと、いっしょに布をえらびに行った。

どれにしようかすごくまよった。

おねえちゃんとえらんだのは、あさがおのがらの布。

どんなワンピースになるかたのしみだなあ。

もうころばないようにするからね。



「…いっぱい走っていっぱい転んで」

「メルちゃんは元気の塊だね」

「また一緒に、布を選びに行こうね」

ワンピースを机に置いてから部屋を出ました。

「…メルちゃん」

「素敵な趣味を、ありがとう」

おしまい

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