はじめにお読み下さい。
「メルちゃん、見つかった?」
「んー、なかなか見つからない…」
二人は公園で何かを探しているようです。
なにやら地面に目を凝らしています。
「あ!あった!!」
「お、メルちゃんすごいね」
「…あれ?」
「ん、どうしたの」
「四つ葉じゃなかった」
「もう、それ何回目…?」
二人が探していたのは四つ葉のクローバーです。
見つけたら何か良いことが起きるかも…という代物です。
しかし、一向に見つかる気配がありません。
「メルちゃん、もうこんな時間だよ」
「もうちょっと探すの!!」
いよいよ暗くなってきました。
お姉ちゃんはメルちゃんをなだめて、お家に帰りました。
「どうして見つからないんだろう?」
「さあね」
「お姉ちゃんは見つけたことある?」
「あるような…あんまり覚えてないなぁ」
「ほら、もう寝る時間だよ」
「…寝る」
二人が四つ葉のクローバーを探しに来たのにはある理由があります。
先日、こんなことがありました。
「ねえメルちゃん、これ見てよ」
「なあに?」
「じゃーん、四つ葉のクローバーだよ」
「わぁ、すごいすごい!!」
「どこで見つけたの?いいことあった?もっと見せて!!」
「ちょ、ちょっと待って」
「これはね、押し花にしてあるからそーっと扱わないとだめなんだよ」
「じゃあ、そーっと見る!!」
リリが見つけた四つ葉のクローバーはちょっぴり小さめですが、ちゃんと葉っぱが四つになっています。
メルちゃんはまじまじと見つめています。
「ね、メルちゃんは見つけたことある?」
「…ない」
「へぇ、意外だなあ」
「どうして?」
「だってメルちゃん、いつもお外で遊んでるから」
「いつもじゃないもん」
「くすっ、お勉強もしてるんだよね」
「メルね、四つ葉のクローバー探すの下手っぴなの」
「そうかなあ、探すコツがあるんだけどね」
「え!!」
「じゃあ可愛いメルちゃんに…特別に教えてあげるね」
「やった!!」
メルちゃんはリリに触発されてからというものの、四つ葉のクローバー探しに明け暮れているのです。
ちょっと前まではキラキラした石探しに夢中になっていました。
その前は砂鉄収集です。
マイブームの移り変わりが激しいなぁとみんなが思っているのは内緒です。
「行ってきます」
「気をつけてね」
メルちゃんは今日も諦めずに四つ葉のクローバーを探しに出掛けました。
いつも遊びに行っている公園ではなく、たまにお姉ちゃんとお散歩する森に向かいます。
「るんるん、今日は見つかるかな?」
「…えーっと、リリの言ってたことは」
『四つ葉はね、この種類のクローバーだと見つかりやすいんだよ』
『へえ、そうなんだ!!』
『あ、あと…人が探してなさそうな場所にすること』
『どうして?』
『だって、みんな探してるところは取り尽くされてるから』
「あの森は誰もいないから…きっとあるはずだよね」
しかし、一人で森に入るのは今日が初めてです。
お姉ちゃんは用事があったのでついてきてくれませんでした。
「…メル子供じゃないもん」
メルちゃんは森に入っていきました。
森、と言っても遊歩道の整備された場所です。
迷う心配はありません。
「クローバーあるかな?」
地面に目を凝らして歩きます。
しかし、なかなか見つかりません。
「んー、せっかく来たのに…」
「ちょっと休憩…」
ちょっと開けた場所に座ると、メルちゃんはリュックから水筒を取り出しました。
今日の飲み物はメルちゃんの大好きなオレンジジュースです。
喉が渇いていたのか、ごくごくと飲んでいます。
「ふぅ、おいしかった」
「クローバーがなかったらオレンジを探そうかなあ?」
「お姉ちゃんならジュースにしてくれるよね」
「…あれ?」
メルちゃんはふと、足元に目をやるとそこにはクローバーが咲いていました。
「クローバーだ!!」
しかも、さっきまで気が付かなかったのですがどうやら辺り一面がクローバー畑のようです。
とたんにメルちゃんの目が輝きました。
「すごいすごい!!」
リュックを降ろすと、早速四つ葉のクローバー探しが始まりました。
「これはリリが言ってたクローバーだよね」
「ここはみんなが探してないと思うから、絶対あるはずだもん」
しかし、なかなか見つかりません。
あった!と思ったら三つ葉のクローバーばかりです。
クローバーばかり見ていて目が疲れたのか、メルちゃんは座り込みました。
「…」
「どうして見つからないんだろう」
「メル、探すの下手なのかなぁ…」
「リリはどうやって見つけたんだろう」
「お姉ちゃんも来てくれたらなぁ…」
次第に辺りが暗くなってきました。
「どうしよう、見つからないよ…」
カラスが鳴きました。
すると、メルちゃんは急に怖くなってきました。
一人でこんな時間まで森にいることは初めてです。
「帰らなきゃ」
メルちゃんは悲しそうにしています。
せっかくなので、一番綺麗な三つ葉のクローバーを摘んでからお家に向かいました。
「はぁ…」
お家に着きましたが、お姉ちゃんはまだ帰っていないようです。
「…ぐすっ」
メルちゃんは悲しくなって泣いてしまいました。
「四つ葉のクローバー見つけてお姉ちゃんに自慢したかったのに…」
「探すの下手だねって笑われちゃう…」
「…」
しばらくしてお姉ちゃんが帰ってきました。
「ただいま」
「…あれ?」
メルちゃんは疲れたのか、寝ていました。
「寝てるし」
「クローバー見つかったのかな?」
「…お?」
机の上にクローバーが置いてあるのを見つけました。
「これは…」
「あれ、三つ葉じゃん」
「そっか、見つからなかったんだね」
お姉ちゃんはメルちゃんを優しく撫でました。
「どこに行ってたのかな」
「見つからなくて悲しくなってたりして」
「今度一緒に探そうね」
「…んん」
メルちゃんが起きてきました。
「あ、おはよう」
「あれ、メル…」
机の上にクローバーを置きっぱなしにしていたのを思い出して飛び起きました。
「あ!!」
「ん?どうしたの」
「あっち向いてて!!」
「え」
「いいから!!」
「しょうがないなあ…」
お姉ちゃんがあっちを向くと、メルちゃんはクローバーを机の下に隠しました。
「…まだ?」
「もういいよ…ぐすっ」
「ん?」
メルちゃんはまた泣いてしまいました。
「どうして泣いてるの」
「なんでもないもん!!」
「なんでもあるようにしか見えないけど」
「教えてほしいな~」
メルちゃんはさっき隠したクローバーを机の下から取り出しました。
お姉ちゃんはさも知らないふりをしています。
「あれ、クローバーじゃん」
「…メルね、四つ葉のクローバー見つけられなかったの」
「そっか」
「メルもね、ぐすっ…クローバー見つけてね、リリに自慢したかったの」
「…そっか」
「メルちゃん、せっかく摘んで来てくれたんだからさ、押し花にしない?」
「三つ葉なのに?」
「だめ?」
「…いいけど」
お姉ちゃんは出来るだけ重そうな本を持ってくると、一番下のページに挟みました。
「はい、しばらくこのままにしておいてね」
「…」
メルちゃんはやはり悲しそうにしています。
よほど悔しかったようです。
「ほら、いつまで泣いてるの」
「ご飯食べよっか」
「…うん」
数日後、お姉ちゃんはクローバーの様子を見ました。
「お、綺麗に出来てるじゃん」
「メルちゃんに教えてあげなきゃ」
メルちゃんが学校から帰ってきました。
「ただいま!!」
「はい、おかえり」
クローバーのことなんて綺麗さっぱり忘れているようです。
「メルちゃん、これ…覚えてるかな」
「…あ!!」
お姉ちゃんは、押し花になった三つ葉のクローバーを見せてあげました。
「きれい!!」
「でしょ、メルちゃん摘んで来てくれてありがとうね」
「でも、三つ葉でもいいことあるのかなあ?」
「え、もういいことあったじゃん」
「?」
「お姉ちゃんね、今とっても嬉しいの」
「そのクローバーはね…人を幸せにしてくれてるんだよ」
「…そっか」
メルちゃんはとても嬉しそうです。
「上手に出来たからさ、今度リリに見せてあげなよ」
「うん」
「ほら、今日はお外でご飯食べるって約束してたよね」
「…あ、そうだった」
「着替えてきてね」
「わかった!!」
メルちゃんがお部屋に行くと、お姉ちゃんは押し花になったクローバーを見つめました。
確かに、一枚だけ葉っぱが小さくなっています。
「綺麗なクローバーを摘んでこないのがいかにもメルちゃんっぽくて良いね」
「泣きながら帰ってたりして…可愛いなあ」
「三枚の葉っぱ…ちっちゃいのはメルちゃんで、残りは私とリリかな?」
「メル子供じゃないもん!!って言われそうだな」
「ふふ…メルちゃんありがと」
クローバーをそっと本に挟むと、メルちゃんがお部屋から出てきました。
「ねえ早く行こうよ!」
「はいはい、ちょっと待ってね…」
おしまい
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