【小説】もうひとりのメルちゃん(1/3)

はじめにお読み下さい。




「あーあ、いいことないかなぁ…」

メルちゃんは窓の外を眺めながら呟きました。
空を見上げると一筋の飛行機雲が。

「…メルもどこか遠くに行ってみたいなあ」

急に思い立ってメルちゃんはお散歩することにしました。
大好きな赤いカバンを掛けてさあ出発です。

「どこ行こうかな~」

いつものお散歩コースじゃつまらないので、今日はちょっと遠回りして森の中を歩いてみることにしました。

「…迷わないよね、大丈夫だよね」

メルちゃんは森の中に入っていきました。
木々の木漏れ日を浴びてメルちゃんは深呼吸しました。

「うーん、とってもいい気持ち!!」

あたりからは小鳥のさえずりが聞こえてきます。

「小鳥さんもとっても楽しそうだね」
「…?」

ふと、メルちゃんは立ち止まりました。
遠くから声が聞こえたような気がしたのです。

「…っちだよ」
「え?」
「こっちだよ」

声のする方を見ると、こっちにおいでと言わんばかりにけもの道ができています。

「気のせいかなあ?」
「…ちょっと行ってみようかな」

メルちゃんは恐る恐る声のする方へ歩き出しました。
しばらく歩いていくと一段とメルちゃんを呼ぶ声がはっきりと聞こえてきます。

「こっちだよ!」
「誰かいるのかな?」
「待っててね」

はじめは怖かったメルちゃんですが、今は好奇心でいっぱいです。
メルちゃんはどんどん歩いていきます。
やがて、開けた場所に出てきました。
きれいなお花がたくさん咲いていて、蝶々が楽しそうに飛んでいます。

「…きれい」

メルちゃんはしばらくぼーっとしていました。
ふと振り返ると、来た道は無くなっていました。

「え!道が無い…」
「どうしようどうしよう」

メルちゃんは急に怖くなってしまいました。

「お家に帰れないかも…」

メルちゃんは今にも泣き出しそうです。

「こっちだよ」

再びメルちゃんを呼ぶ声です。

「だ、だれ…?」

メルちゃんが泣きそうな顔をして振り返ると、お花畑の真ん中にメルちゃんが立っていました。

「め、メルだ!!」
「来てくれてありがとう」
「なんでメルがいるの!?」
「こっちにおいで」

もう一人のメルちゃんは手招きしています。
どうしようもなくなったメルちゃんは歩き出しました。

「メルちゃんだよね?」
「め、メルだよ」
「メルもメルだよ」
「もうひとりのメル…?」
「そうだよ、メルはもうひとりのメルちゃんなんだよ」
「メルを呼んでたのって…」
「来てくれてありがとう!」

メルちゃんは訳が分からなくなってきました。
一方で、もう一人のメルちゃんはとっても嬉しそうです。

「メルちゃんを呼んだのはね、一緒に遊びたかったからだよ」
「メルと?」
「うん、メルちゃんとね」
「ね、お話しようよ」
「え?いいけど…」

二人は切り株に座っておしゃべりしています。
メルちゃんはだんだん楽しくなってきたようです。

「でね、メルね、この前…」
「あはは、面白いね」
「でしょ?それでね…」

しばらくお話してるともう一人のメルちゃんが言い出しました。

「…ね、そのかばん何が入ってるの?」
「これ?これはね、お友達からもらったお手紙とか…メルの宝物が入ってるの」
「宝物かぁ…素敵だね」

もう一人のメルちゃんはふと、悲しそうな顔をしました。
宝物といえるような物が無かったのです。

「…宝物なんてないな」
「高いものとか、きちょうなものじゃなくてもいいんだよ?」
「きれいな空き箱とか」
「…」

それでも、もう一人のメルちゃんは悲しい顔をしたままです。

「あ!いいこと思いついた!!」
「…え?」

メルちゃんはカバンをごそごそしはじめました。

「えーっと…どこだっけな」
「…あった!!」
「はい、これあげる!」

メルちゃんの手にはきれいな髪飾りです。

「…くれるの?」
「うん!!」
「プレゼントだよ」

もう一人のメルちゃんは満面の笑みで言いました。

「ありがとう!!」
「宝物にするね」

さっそくお耳に付けました。

「わあ、似合ってるよ!」
「そ、そうかな?えへへ」

二人はすっかり仲良しになっていました。
かけっこしたり、お花で輪っかを作ったり、お昼寝したり…
こんな時間がずっと続けばいいな、メルちゃんはそう思いました。
気がつくと、夕暮れ時になっていました。

「楽しかったね!!」
「うん…」

もう一人のメルちゃんはなぜか悲しそうです。

「…どうしたの?メルまたここに来るからね!」
「あのね…」
「うん」
「メルね、もうすぐ消えちゃうの」
「…え?」

もう一人のメルちゃんの体がうっすらと透き通っています。

「え!」
「また遊ぶの!!約束したでしょ!!」
「ごめんね、メルね、この世界の人じゃないんだ」
「何言ってるの?さっき一緒に遊んだでしょ?」
「かけっこしたりお昼寝したりしたでしょ!」
「…」

もう一人のメルちゃんの体がどんどん透き通っていきます。

「お別れだね」
「やだ!いかないで!!」

メルちゃんは泣き出してしまいました。

「泣いちゃだめだよ」
「またいつか、会おうね」
「やだ!!」

大泣きしているメルちゃんに、もう一人のメルちゃんがふと何かを差し出しました。

「これ、プレゼント」
「…リボン?」
「メルとおそろいのリボンだよ」
「さっき宝物をくれたから…お返しだよ」
「こんなのしかなくてごめんね…」

メルちゃんはさっそく耳につけてみました。

「似合ってるよ」
「ありがとう…」

泣きじゃくっていたメルちゃんが、ちょっとだけ笑いました。

「そろそろお別れだね」
「遊んでくれて、ありがとう」
「…ほんとに行っちゃうの?」
「…ごめんね」
「ばいばい」

もう一人のメルちゃんはすっかり消えてしまいました。

「やだ…」



「やだ!!!!」



メルちゃんは大泣きしています。
あたりはすっかり真っ暗です。
帰り道も分からず、メルちゃんはどうしようもなくなってしまいました。

「…ちゃん」
「メルちゃん?」

遠くから声が聞こえてきます。

「だ、だれ…?」

メルちゃんはあたりを見回しましたが、そこには誰もいません。

「メルちゃん!!」
「わ!!」

メルちゃんは飛び起きました。

「もう、いつまで寝てるの?」
「あれ?メルお散歩してて…」
「…ん?さっきまでお昼寝してたでしょ」

どうやら、メルちゃんの見ていた夢だったようです。

「さっきお友達が来てたよ?メルちゃんいますかーって」
「あ!!お出かけするんだった!!」
「すぐ準備するから待ってて!!」

メルちゃんはお部屋に戻り、大切なカバンに宝物を詰め込みました。

「さて、準備おっけー…」

ふと、メルちゃんは耳に何か付いているのに気が付きました。

「…?」

それは、夢の中に出てきたリボンでした。
もう一人のメルちゃんにもらった、おそろいリボンです。

「また、会おうね」

宝物がまた一つ、増えました。



Part2へ続く

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