【小説】おばけなんて…

はじめにお読み下さい。





夜の10時になりました。
子供はもう寝る時間です。
でも…メルちゃんのお目々はぱっちりしています。

「メルちゃん寝ないの?」
「眠くないもん」
「明日お休みだけど…早く寝ないと大きくなれないぞ~?」
「別にいいもん」
「ふーん、じゃあずっと子供で良いんだ?」
「だって、大人になったらお子様ランチ食べられなくなっちゃう」
「…はぁ、そうですか」

お姉ちゃんは珍しく眠そうです。
いつもならメルちゃんが先に寝るのですが…

「ふあぁぁ…」
「…私もう寝ても良い?」
「いいよ」
「早く寝ないとおばけが出るからね」
「そ、そんなことないもん」

おばけ、と聞いて一瞬メルちゃんはドキッとしました。
お姉ちゃんに怒られることよりも何よりもおばけが大嫌いなのです。

「じゃ、おやすみ…」
「早く寝るんだよ?」
「うん」

お姉ちゃんは部屋に行くと、ベッドに寝転がってスマホをし始めました。

「あーあ、明日なーんにもすること無いや」
「あのうさぎさんとお出かけしてもいいけど…たまには家でのんびりするか」
「メルちゃんの元気…少しぐらい分けてほしいよ」
「子供はいいな、あーあ」
「それより…日記書かなきゃ…」

お姉ちゃんは毎晩、日記を書いています。
しかし、人に見られるとかなりやばい内容のようです。

「えーと、今日は…何があったっけ」
「今日はメルちゃんが…えーっと…」
「…」

あまりにも眠すぎて机に突っ伏して寝てしまいました。
一方その頃…

「今日はいっぱいお昼寝したから、眠くないもん」
「よふかししちゃおっかな?」
「お姉ちゃんはもう寝てるから…えへへ、怒られないもん」

メルちゃんは喜々として漫画を読み始めました。
漫画の次はお絵描き、その次は宝物の整理です。
すると、あっという間に深夜の12時になりました。

「もうこんな時間だ」
「…眠くないなぁ」
「でもでも、こんなに遅くまで起きてると大きくなれないかも…」

散らかした漫画を片付けてからお部屋に入りました。

「んー、眠くない…」
「でも寝ないと…」

ふと、メルちゃんは以前リリの家で一緒に二人で寝た時の会話を思い出しました。

『ね、メルちゃん…こんなお話知ってる?』
『なあに?』
『子供がずーっと遅くまで起きてるとね…』
『起きてると?』
『どこからかおばけがやってきて、暗闇の中にさらわれちゃうの』
『え、やだ!!』
『だからね、子供は早く寝ようねってお話』
『わかった…』

メルちゃんは急に怖くなってきました。

「お、おばけ…やだ…」
「かぎを閉めなきゃ」

自分の部屋の窓は閉まっているのを確認しました。
しかし、玄関の鍵が閉まっているか分かりません。
廊下は真っ暗です。
メルちゃんは怖くて外に出られなくなってしまいました。

「だ、大丈夫だよね」
「メルが学校から帰ったときに絶対閉めたもん」
「寝なきゃ…」

ベッドに入りました。
しかし、怖くて部屋の明かりが消せません。
これではまぶしくて眠れません。

「どうしようどうしよう、早くねなきゃ…」

メルちゃんはドキドキしてきました。
早く寝ないとおばけがやってくるのですから。

メルちゃんはちらっと壁掛け時計を見ました。
時間は深夜1時です。
いつもならすやすやと眠っている時間です。

「…お姉ちゃん」

メルちゃんはお姉ちゃんのお部屋に行くことにしました。
『メルちゃん子供だね~』とからかわれそうですが、よほどおばけのほうが怖いようです。
メルちゃんの部屋とお姉ちゃんの部屋は少しだけ離れています。
いずれにしても、真っ暗な廊下を歩く必要があります。

「…うぅ」
「メル…子供じゃない…もん」

ゆっくりとお部屋のドアを開けました。
暗闇が広がっています。
一歩踏み出すと、そのまま暗闇にまるっと飲み込まれてしまいそうです。
メルちゃんはもう泣きそうです。

「おばけなんていないもん…!!」

ゆっくりと一歩を踏み出しました。
冷たい廊下の感触がします。
いつにもまして冷たく感じます。
メルちゃんはゾッとしました。

「…」

勇気を出してお部屋を出ました。
そろりそろりとお姉ちゃんのお部屋に向かいます。
その時でした。

ガタッ!!

…実はこの日、台風が近づいていました。
風で何かが飛んできたのでしょう。
メルちゃんはというと…

「…」

驚きすぎて動けなくなってしまいました。
おばけが来たんじゃないか…
ちょっとでも動くとおばけにさらわれてしまうのでは…
そんな気がしてならないのです。

「や、やだ…」

しばらくして、また音が聞こえました。
風が強くなってきたのでしょうか。
メルちゃんはもう動けません。
しかも、隙間風でメルちゃんのお部屋のドアが閉まってしまいました。
完全に真っ暗になった廊下に立ち尽くしています。

「メルこわい」
「たすけて…」

ふと、小さく物音が聞こえました。
思わずメルちゃんは耳を塞いでしゃがみ込みました。
誰かの足音が聞こえてきます。
もうおしまいだ、メルちゃんはそう思いました。

「…ん、どしたの」

そこに居たのはもちろん、お姉ちゃんでした。
廊下の明かりを付けると、メルちゃんはしゃがみこんで震えていました。

「メルちゃん?」
「…お、ねえちゃん?」
「もしかしてまだ起きてたの?」
「悪いメルちゃんはきらいだよ…ふあぁ」

メルちゃんはお姉ちゃんに抱きつきました。

「わ!」
「ちょっと、どうしたの」
「おばけ…」
「おばけ?」
「おばけが来たと思って、あのね…」
「…よしよし」

メルちゃんを撫でると、ちょっと安心したようです。

「…いっしょにねる」
「いいよ」

久しぶりにメルちゃんはお姉ちゃんと二人で寝ることになりました。
ベッドに入るとメルちゃんがくっついてきました。

「早く寝ないとだめだよ?」
「…わかった」
「廊下にいるもんだから、またおねしょでもしたかと思ったよ」
「ちっ、ちがうもん!!」
「え、だってこの前…」
「!!」

メルちゃんをからかうのは止めにしました。

「ねえねえ、もうおばけ来ない?」
「大丈夫だよ、おばけなんて居ないから」
「来たら?」
「え~、お姉ちゃんがやっつけちゃうから」
「…」

お姉ちゃんはメルちゃんを優しく撫でました。
すると、メルちゃんは安心したのか少しだけ笑ってくれました。
二人は仲良く眠りに就きました。

その夜、メルちゃんは怖い夢を見ました。
暗い廊下でおばけに追いかけられる夢です。
走っても走ってもおばけが追いついてきます。

「こないで!!」

おばけはどこまでもついてきます。
メルちゃんは夢の中で転んでしまいました。
そして

「わ!!」

メルちゃんが起きてきました。

「…あ」

メルちゃんが何やらもぞもぞしています。
しばらくしてお姉ちゃんも起きてきました。

「…あ、メルちゃんおはよう」
「…」
「どうしたの…まだ眠いかな」
「…」
「ん?」
「お姉ちゃんおこる?」
「何が?」
「あのね…」

今日の天気は、幸いにも晴れでした。

おしまい

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